復活途上の日本マラソン、静かな闘志で中本が入賞

中尾義理

不屈の粘りで中本6位入賞

中本(左)は自分のペースを貫き、粘りのレースで6位入賞を果たした 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 日本人選手は「あきらめない」「粘ってみせる」というキーワードをよく口にする。そうした精神戦略が、五輪の舞台でどこまで通用するのかに興味があった。その答えを中本健太郎(安川電機)がロンドン五輪最終日の12日(現地時間)に行われた男子マラソンで見せてくれた。

 周回コース2周目の折り返しで8人からなる10位グループに追いつき、そのリズムのまま前の選手に迫り、かわし、5位争いを演じた末、2時間11分16秒で6位入賞を果たした。2011年世界選手権(テグ)を含む過去8度のマラソンすべて10位以内という中本らしい堅実な追い上げ型レースだった。

 金メダルは2時間8分1秒でフィニッシュしたスティーブン・キプロティク(ウガンダ)の手に。世界選手権2連覇中のアベル・キルイ(ケニア)が銀メダル、前半独走したウィルソン・キプサング・キプロティッチ(ケニア)が銅メダルとなった。

 2大会ぶりに五輪の入賞を取り戻した日本。中本の6位入賞は日本の男子マラソンにとって、ひと筋の光明ではある。しかし、11キロすぎから遅れた山本亮(佐川急便)は40位に、30キロすぎまで入賞争いグループにいた藤原新(ミキハウス)は45位にまで沈んだ。中本は「“マラソンの日本”を復活させたい」と言った。再建途上であることはまだ変わらない。

貫いた「自分のペース」

 日本の3選手はいずれも五輪初出場で8位以内入賞を目標に掲げていた。前回の北京五輪では、1人がケガのため出場を断念し、残り2人も練習過程の不安や当日に不調を抱えており、結局13位と76位。スタートラインに立つ前から入賞を競える状態ではなかった。今回の3選手は、いつも通りに準備を整え、意欲的なスタートを切った。

 10キロまでは5キロ15分20秒ちょっとのペース。集団は30人ほどだった。この流れを一転させたのが、世界歴代2位の2時間3分42秒を持つ優勝候補のキプサング。10〜15キロは14分11秒に急加速した。まだレースの態勢が整う前の出来事だった。

 2位グループも14分30秒を切るラップタイム。遅れたとはいえ、藤原も14分50秒、中本も14分56秒でカバーした。メダル争いに加わるなら前のグループに食らい付かなければならないが、現実的な目標が入賞である以上、自分の感覚を無視して追うにはリスクが大きかった。
 この場面での対応が後半に吉凶を生んだ。2時間4分台の選手さえ、ハーフを過ぎると次々に脱落していき、26.6キロでS・キプロティクとキルイに追いつかれたキプサングは35キロすぎの仕掛けで決め切れずに失速し、金メダルを逃した。藤原にもダメージが残った。

 一方で、中本は前方のペース変化にのみ込まれなかった。のみ込まれていれば、15キロ地点で6秒差だった藤原に無理をしてでもすぐに追いついただろう。実際は藤原との差は20キロで17秒差になっていた。それが「自分のペース」だった。
 反撃はハーフを通過してから。2キロ足らずで藤原のグループに追いついた。後半に本領を発揮する自分のスタイルへの自信、「タフなコースで暑くなれば、前から落ちてくる」という読みが中本をプッシュした。

1/2ページ

著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント