復活途上の日本マラソン、静かな闘志で中本が入賞

中尾義理

地味な第3の男が救世主

男子マラソンはケニア勢を抑えてウガンダのキプロティク(中央)が金メダルに輝いた 【Getty Images】

 ロンドン五輪の日本代表選考会において、中本は昨夏の世界選手権(テグ)、3月のびわ湖ともに日本人2位。堅実に走るが、藤原ほど話題を提供できるわけではなく、山本にはびわ湖の直接対決で敗れており、どこか“3番目の男”という地味な印象を持たれた。だからこそ、五輪本番で明るいスポットライトを浴びることになった中本には、青い炎のような静かな闘志が似合った。

 その闘志は走る姿勢に現れていた。10位グループに追いついた中本はすぐに集団最前列に立った。入賞圏内に入ったときも、5位争いに上がったときも、海外勢を後ろに引き連れた。後方ではなく前を引っ張るアグレッシブな走り。「入賞する」という強い意識が積極性のスイッチを押したのだ。

 4位になるチャンスもあった。アテネ五輪男子マラソン2位のメブ・ケフレヅィキ(米国)とともに4位を追った中本だが、41キロ付近で仕掛けられた。レース巧者のベテランは、中本も視界に捕らえていたマリウソン・ドスサントス(ブラジル)を抜いて4位に上がったが、中本は逆転できなかった。

「もう少し上を目指したかった」と中本は言うが、「入賞できて良かった。うまく走れたと思います」と達成感があるのも本音だろう。前半は入賞が見える位置でレースを進め、後半は自信を持って積極的になること。中本の戦略が実った。

日本は再建途上

 優勝したS・キプロティッチは、上り坂の36.8キロ付近でスパートした。ここで仕掛けはないだろうという相手の油断を突いて、ダメージを負わせた。残念ながら、今の日本勢にその極限の争いに加わる力はない。
 入賞を1つ取り戻した安堵(あんど)感はあるものの、山本は勝負どころを前になすすべなく、藤原も30キロすぎまで入賞圏内にいたが、決め切れなかった。「復活」というには早すぎる。

 だが、レース展開と粘り方次第で入賞のチャンスは呼び込むことができる。持ち味を発揮した中本はそれを証明した。次の五輪までの4年間、成功体験を積み重ね、国際舞台での目標が「入賞」から「メダル」になるとき、本当の復活が待っている。日本はいま再建途上なのだ。

<了>

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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