3連覇もまだ進化の過程――伊調が目指すレスリングスタイルの確立
女王に吹く逆風 3連覇へ向けての試練
その負の要素は伊調自身にもふりかかった。3日にロンドン入りし、4日の初練習で伊調は左足首のじん帯を3本中1本半を切ってしまう。回復が早かったことが不幸中の幸いだったが、「万全(の体調)でやりたかったのはあるし、ロンドンに入ってからのケガだったのでよりによって今かと思った」。結局、ロンドンでの練習でスパーリングは行えず、治療とイメージトレーニングが主な“練習メニュー”となってしまった。
さらに、試合前日の計量と組み合わせ抽選、初戦で67キロ級世界V3のマーティン・ダグレニアー(カナダ)を引いてしまう。デグレニエは北京五輪で唯一伊調から第1ピリオドを奪い、伊調がもっとも苦戦した相手。コーチ陣や関係者はこぞって「初戦がヤマ場だ」と気を引き締め直した。
スター選手の3連覇失敗、自身の思わぬけが、そして組み合わせの悪さ――。“五輪には魔物が――”。女王に対するすべてに逆風が吹いているようだった。
8月8日の試合、8番、八戸出身で運気向上
決勝は48キロ級から行われ、小原が大接戦をものにして金メダルを獲得。壮絶な戦いだったため、会場は日の丸と日本コールで埋め尽くされ、伊調に追い風となるホームの雰囲気ができあがっていた。その様子を伊調は、アップ会場のビデオでチェック。「日登美先輩が日の丸を掲げているのを見て、気合が入った。もしかしたら、日本人の当たりがキツくなるかなと思ったけど、それを覆すぐらいの豪快なタックルをしようと思った」と負の連鎖はどこへやら。五輪V2、世界V7の女王オーラ満載で決勝のマットに立ち、「ずっと練習してきた」とこだわる両足タックルを皮切りに、昨年世界3位の景瑞雪(中国)相手に危なげない試合でストレート勝ち。女子初の偉業を難なく達成したのだ。