光った迫田のプレー、不安材料は木村=元日本代表の大山加奈がアルジェリア戦を解説

構成:田中夕子

思い切りのいいバックアタックでチームに勢いを与えた迫田 【写真:ロイター/アフロ】

 ロンドン五輪のバレーボール女子1次リーグが28日(現地時間)、6試合行われ、A組の日本はアルジェリアを3−0(25−15、25−14、25−7)で下し、初戦を白星で飾った。

 この試合について、元日本代表の大山加奈さんに、勝負のポイント、見えた課題などについてお話をうかがった。

緊張する初戦、初出場組の堅実プレーに感心

 オリンピックの初戦は、たとえ相手がランキングでは格下だろうと緊張するものです。
 私が出場した初めてのオリンピックはアテネ。初戦はブラジルだったのですが、緊張で地に足がつかず、試合が始まる前から終わりまでずっと、頭が真っ白でした。
 28日の初戦でスタメンとしてコートに入った井上(香織=デンソー)選手、山口(舞=岡山)選手、迫田(さおり=東レ)選手も、これが初めてのオリンピックなのですが、みんな落ち着いてそれぞれの役割を果たしていました。私と比べること自体間違っているかもしれませんが(笑)、終始堅実なプレーをしていた初出場組の選手たちに思わず感心してしまいました。

 なかでも目を引く活躍をしたのが、迫田選手です。
 持ち味である思い切りのいいバックアタックはもちろんですが、相手に向かって行く、気持ちを前面に打ち出したプレーをしていました。1セット目の終盤には佐野(優子= イトゥサチ/アゼルバイジャン)選手が弾かれたボールを壁にぶつかりながらつなげるなど、彼女らしい一生懸命なプレーも光っていました。

 眞鍋(政義)監督は、相手へのデータ対策として迫田選手をスタメン起用したのかもしれませんが、結果として迫田選手のスタメン起用は、チームにとってプラスの効果を生み出していたのではないでしょうか。

 3セット目はその迫田選手に代わって江畑(幸子=日立)選手が出場しましたが、彼女も落ち着いて、相手ブロックを良く見ながらプレーしていました。同じく途中出場した新鍋(理沙=久光製薬)選手も安定したサーブレシーブとジャンプサーブでサービスエースを取り、2枚替えで投入された狩野(舞子=ベシクタシュ/トルコ)選手もブロック、サーブだけでなくセッターがいない場面では丁寧なトスを上げていました。初戦から全選手がコートに立ち、それぞれの仕事を確認しながら、プレーすることができたのは次戦につながる大きな収穫となるはずです。

木村は過剰なプレッシャーを背負っている

 ただ、不安材料もあります。少し気になったのは、木村(沙織=東レ)選手です。

 もともと連戦の初戦は本調子ではないことも多いのですが、今日はやや顔色が悪く、普段よりも険しい表情でしたので、過剰なプレッシャーを背負ってしまっているように見受けられました。
 攻撃面でも全体の攻撃でスピードを重視するあまり、低いトスを打ちきれず、本来の木村選手らしい攻撃は数えるほどしかありません。バックアタックも体から離れたトスに、無理矢理突っ込んで打っているため、ボールに体重が乗らず、相手のブロックやレシーブにかかっていたのが、少し心配です。とはいえ、ここ一番という場面での勝負強さは抜群なので、これから調子を上げてくれると信じて、(第2戦の)イタリア戦でのパフォーマンスに期待しましょう。
 
 それからもう1つ。数字には残らないミスがいくつかあったのも気がかりな点です。
 第1、第3セットは日本が大差をつけて勝利しましたが、競り合う展開となった第2セット、9−6と日本がリードした場面から、アルジェリアに3連続失点を喫しました。
これは、日本の小さなミスが原因です。

 9−8と1点差に迫られたところでは、日本の攻撃がアルジェリアを崩し、チャンスボールが日本コートに戻って来ました。本来ならばここで日本が得意とする攻撃で確実に得点しなければならないのですが、このチャンスボールをレシーブしたのが、トスを上げるはずの竹下(佳江=JT)選手です。セッターが1本目(のレシーブ)を取ったために、2本目(のトス)はリベロの佐野選手が上げることとなり、やや高さを欠いたトスを山口選手が打ちきれず、スパイクミスで相手に得点を与えてしまう形になりました。

 アルジェリアのように、相手がミスをしてくれる展開ならばこれでも勝ちきることができますが、これから対戦するイタリア、ドミニカ共和国、ロシアを相手に同じようなミスをしていては厳しい状況を招きかねません。おそらくプレーしていた選手たち自身が一番わかっていることだとは思いますが、もったいないミスを1つでもなくすこと。今後の試合に向けて、まずなくすべき課題と言えるのではないでしょうか。

イタリアは全員を警戒しないといけない相手

 30日(日本時間31日)に対戦するイタリアは、セッターを除く全選手がバランス良く攻撃してくる総合力の高いチームです。「この選手をマークすればOK」というのではなく、どこからでも攻撃を仕掛けてくるので、全員を警戒しなければなりません。ブロッカーとしては、非常に絞りにくい相手です。

 アルジェリア戦でもレフトからの攻撃に対して、ブロックの間を抜かれるケースが目立ちましたが、「全部を止めよう」と思うのではなく、「このコースを確実に塞げば、抜けても後ろが(レシーブで)拾ってくれる」と、気負わずにそれぞれの役割を果たすことが、勝ちにつながるポイントとなるはずです。

 ブロックではやや課題も目立ちましたが、今大会は荒木(絵里香=東レ)選手の調子が良さそうです。ミドルブロッカーの要として、予選の大一番とも言うべき一戦で、世界トップレベルのイタリアのミドルブロッカーに負けないプレーで、勝利を引き寄せてくれると信じています。

<了>

大山加奈

【大山加奈】

1984年6月19日生、東京都江戸川区出身。小学校2年の時に地元のクラブでバレーボールを始め、小中高で全国制覇。特に成徳学園高3年時には春高バレー、インターハイ、国体の3冠を達成した。
 その年に初めて全日本に選出されると、同じく高校生でメンバーに選出されていた栗原恵(現:岡山シーガルズ)とともに「メグカナ」コンビとして人気を博す。高校卒業後は東レに入社。ワールドカップ、アテネ五輪に出場する。2007年ごろから椎間板ヘルニアなどのケガに苦しみ、10年に26歳で現役を引退。日本バレーボール機構への出向を経て、現在は東レに広報担当として勤務するほか、バレーの指導、普及活動にも携わっている。
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著者プロフィール

1976年神奈川県生まれ。日本大学短期大学部生活文化学科卒業。なぜか栄養士免許を有する。神奈川新聞社でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部に勤務。2004年からフリーとしての活動を開始。高校時代に部活に所属したバレーボールを主に、レスリング、バスケットボール、高校野球なども取材。

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