ロンドン前哨戦で吉田の連勝がストップ 五輪出場選手の4者4様の結果=女子レスリングW杯

増渕由気子

6年ぶり6度目の優勝を果たした日本だが、連勝が58でストップした吉田は表彰式で号泣した 【写真は共同】

 上位8カ国が参加して行われる国別対抗戦、女子レスリングワールドカップ(W杯)が5月26〜27日、東京・代々木第2体育館で行われた。日本は、ロンドン五輪代表の48キロ級・小原日登美(自衛隊)、55キロ級・吉田沙保里(ALSOK)、63キロ級・伊調馨(ALSOK)、72キロ級・浜口京子(ジャパンビバレッジ)の4人を擁する布陣で、初日に大会5連覇中の中国を破ってAグループ1位で決勝に進出。最終日の決勝戦で、Bグループ1位のロシアを5−2で下して6年ぶり6度目の優勝を遂げた。

 今大会は、ロンドン五輪の前哨戦として位置づけられていた。2004年アテネ五輪、08年北京五輪で日本女子レスリングはともに金2、銀1、銅1を獲得し、ロンドン五輪でも、金メダルの量産が期待されている。さらに、吉田と伊調は女子として前人未踏の五輪3連覇という記録もかかっているのだ。
 日本は、本番へ向けて実戦の最終調整も兼ねて、五輪代表全選手をエントリーさせたのだが、ロシアとの決勝戦では、4者4様の結果が待ち構えていた。

4年前の再現……吉田、W杯で再び黒星

4年前と同じく、五輪前のW杯で連勝が止まった吉田。五輪本番では結果を残すことはできるのか 【写真は共同】

 ロシアとの決勝戦で4−0と日本がチームとしての勝利を決めたあと、吉田は5番手として出場した。結果は、昨年の世界選手権女子59キロ級9位のバレリア・ジョロボワに1−2で敗れ、4年前の同大会(08年1月W杯)以来の黒星。ロンドン五輪の前哨戦で、またも連勝が止まった吉田は、ショックを隠しきれずに号泣した。

「チームは優勝できてうれしいけど、個人的に決勝であんな戦いをしてしまって、主将として情けない。ロンドン五輪を控えているのに、ここで勝てなかったら、ロンドンでどうなるのかなと思う」と厳しい表情で話した吉田。人類最強と謳(うた)われ、“五輪V3、世界選手権V9”のアレクサンドル・カレリン(ロシア)の記録に挑戦する2カ月後のロンドン五輪に不安を残す結果となってしまった。

 敗因につながる事象は3つあった。1)離れた間合いからのレスリングを研究されているため、接近戦のスタイルに切替えている途中だった。2)W杯は2キロオーバーの計量(57キロ)で体重が少ない吉田に不利だった。3)決勝戦はチームの勝利が決まっており、吉田の闘争心に影響を及ぼした。
 
 女子日本代表の栄和人監督が「W杯は2キロオーバーで計量のため、吉田は何か不安を感じていた」と話せば、吉田は「近くから入ると、スピードが落ちるのでタックルを返されるのではと躊躇(ちゅうちょ)した。もしこのスタイルが間に合わなければ、スタイルを前に戻していく可能性もある」。「(4番手までが全員が勝ち、チームの勝利が決まったことで)『ただやれば勝てるという気持ちはダメだよ』と言われたが、安心していた気持ちがあった」と語り、複数の事象がすべてマイナスに作用してしまったようだ。

伊調は全勝も「内容に不満」

 吉田と同じく、女子で前人未到の五輪3連覇に王手をかけている女子63キロ級の伊調は、予選リーグの3試合と決勝の4試合で全勝し、大会を終えた。決勝のロシア戦は、無失点のストレート勝ちの内容だったが、予選リーグの米国戦ではタックルを返されて1ピリオドを落とし、中国戦では第2ピリオドで先制されて追いかける展開もあった。

 国際戦でほとんど黒星がないだけに“伊調包囲網”も年々厳しくなっている。中国戦では目突きなどのラフプレーを受けて試合が中断。試合後の伊調の目の周りは傷だらけで、その激闘を物語っていた。「(冬場の欧州遠征以来)久々の試合で、しかも日本開催だし、スイッチが入っていない」とモチベーションについて話していたが、“世界”と試合をこなすたびに、「だんだん動きは良くなっていった」と実戦感覚は取り戻せたようだ。

 北京五輪後から伊調が取り組んでいるのは、自身のレスリングスタイルの確立だ。「アテネ、北京までは、千春(=姉=アテネ、北京五輪女子48キロ級銀)と金メダルを取る夢があった」と勝負にこだわるレスリングをしていたが、今は自分のために闘っている。「ロンドンは試合の1試合」と話すほど、勝つことと同じくらい試合内容を重視するようになった。

“五輪前哨戦”を終え、伊調は「全体的に動きが悪く、反省することが多い。タックルだけではなく、くずしやがぶりをしながら最後はタックルで決めるという頭を使ったレスリングをしなければいけないのに、自分がやりたいことをこだわりすぎてしまった。今日は30点」と反省の弁。「悪いところを直して、五輪ではいい動きがしたい」と、内容と結果ともに五輪本番では自己採点で100点満点を目指す。

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著者プロフィール

栃木県宇都宮市出身。作新学院高〜青山学院大・文学部史学科卒業。高校まで剣道部に所属し、段位は2段。趣味は、高校野球観戦弾丸ツアーと、箱根駅伝で母校の旗を携えての追っかけ観戦

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