前年王者・柏に生じた誤算と盲点=ネルシーニョ体制4年目、強さを取り戻せるか

鈴木潤

並行して戦うACLが招く疲労

4年目を迎えたネルシーニョ体制。いくつかの“誤算”が不振を招いた 【Getty Images】

 対戦相手から受ける徹底的なマークと、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)が生む過密スケジュールに、ある程度苦しむことは予想ができていたが、まさかここまで不振を極めるとは思いもしなかった。ディフェンディングチャンピオンとして挑んだ2012年シーズン、柏レイソルはJ1第11節終了時点で1試合消化試合が少ないものの、3勝2分け5敗と14位に甘んじている。

 ガンバ大阪や鹿島アントラーズのように監督交代が行われたわけではない。それどころかネルシーニョ体制は今年で4年目を迎え、さらなる成熟が期待されていた。主力選手の放出もなければ、サッカーのスタイルも変わらない。チームの雰囲気、監督と選手の関係も良好だ。昨年とは何ひとつ変わっていないにもかかわらず、今の不振には「なぜ?」と首をかしげたくもなる。

 不振の原因として、真っ先に指摘されるのは、やはり並行して戦うACLが招く疲労である。これに関しては、試合後の記者会見や練習後の囲み取材の場で、何度も報道陣からネルシーニョ監督へ質問が投げ掛けられており、その都度指揮官は「フィジカル的な問題は何もない」と完全否定している。

 確かにACLが直接影響したと言えるような、コンディション不良を感じさせた試合は開幕戦の横浜F・マリノス戦だけであった。ゼロックス・スーパーカップの翌日にタイへ飛び、さらにバンコクから遠方のブリーラムへ移動。しかも、まだ寒さの残る日本から真夏のタイへの移動だ。昨シーズンは前半をリードして終えた試合は15戦15勝という驚異的な数字を残した柏が、その横浜FM戦では3度のリードを守り切れず、後半アディショナルタイムに追い付かれるという試合を演じてしまい、明らかにACLの長距離移動と寒暖の変化が影響を与えていたことを感じさせた。

思うようにフィットしないリカルド・ロボ

 前述した通り、そのほかのゲームではネルシーニョ監督はACLの影響を完全否定し、敗戦の理由を「チャンスに決め切れなかった」、「ミスが多くそこからピンチを招いた」、「主力メンバーにけが人が多い」と分析する。ただ、直接的にではないにしろ、間接的にACLとそれらを結び付けてしまうのは強引だろうか。疲労困憊(こんぱい)ではなくても、わずかな疲労感がシュートやパスの精度を奪い、それが決定機を逸し、パスミスを引き起す。

 また、選手の負傷においても、仮にACLに出場していなかった場合、果たしてここまでけが人が出ていただろうか。昨年の柏は若干の負傷者こそあれ、ここまで主力選手にけが人を頻発はさせていなかったのだから。けが、あるいは体調不良が原因で、ここまで戦列を離れた選手の名前を挙げてみると、大谷秀和、近藤直也、栗澤僚一、菅野孝憲、那須大亮、橋本和ら守備的な選手が目立つ。これでは守備が破たん傾向に陥るのは無理もない。

 しかしネルシーニョ監督が言及する通り、すべての原因をACLに求めるわけにはいかない。そこで考えられるのが、柏に生じたいくつかの“誤算”だ。

 柏のFW陣には、それぞれ違った持ち味はあるが、彼らは皆、個の力で局面を打開できるタイプではなく、対戦相手に引かれた場合に個の力でどうブロックを打ち破るかというところに弱点がある。昨年はネルシーニョ監督が調子の良い選手を起用することで、攻撃力を活性化させたが、「決定力不足」へ陥らないように「シーズン15点から20点を取れるFWの軸になれる選手」という役割を担わせるために獲得したのが新戦力のリカルド・ロボだった。だが、この期待されたロボが思うようにフィットしない。今シーズンのスタメン2トップで起用されたFWは北嶋秀朗、田中順也、工藤壮人、そしてロボの4人なのだが、この中でノーゴールはロボただ1人。先述した監督の言及する「チャンスに決め切れない」という点も、ロボが期待通りの活躍を見せていた場合は、また違った結果が得られていたに違いない。

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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