前年王者・柏に生じた誤算と盲点=ネルシーニョ体制4年目、強さを取り戻せるか

鈴木潤

選手層の薄い最終ラインにも大誤算

ACLでは決勝トーナメント進出を決め、昨年の強さを取り戻しつつある 【Getty Images】

 また、かねてから選手層の薄さを指摘されていた柏の最終ラインでも誤算がある。特にセンターバックの層は薄く、その問題を解消するために那須を獲得し、近藤と増嶋竜也の3人でセンターバックを回していく予定だったと思われる。だが、そこで近藤と那須がそろって戦列を離れてしまったのは大誤算以外の何物でもないだろう。

 そして、もうひとつ不振を招いた原因として考えられるのが、「継続性が生む盲点」である。

 ネルシーニョ体制は今年で4年目を迎える。2010年のJ2からは、主軸のメンバーはほとんど変わらず、今シーズンはチームのさらなる成熟が期待されていた。ところが、長い間同じメンバーで戦うことが逆に悪い方向に働き、成熟を促すのではなく、選手間に「言わなくても分かっているだろう」という気持ちを生じてさせてしまう。従って、ピッチ上での意思の疎通を怠り、そのわずかな連携のズレを相手にまんまとつけ込まれる結果となった。

 このままズルズル行けば、降格圏への転落も時間の問題だった。昇格1年目での優勝という偉業を成し遂げた翌年、もし降格でもすれば、それこそサッカー界に前例を見ない大事件となるところだ。

欠けていた意思の疎通で不振脱却へ

 しかし柏はここに来て、ようやく昨年の強さを取り戻そうとしている。第11節の川崎フロンターレ戦、そして続くACLの全北現代戦は、昨シーズンをほうふつとさせる安定した試合運びを見せ、ともに2−0という快勝を収めた。川崎戦では近藤と那須、全北戦では菅野が戦列に戻り、守備には以前の安定感が戻ってきた。そして守備から入るスタイルの柏だけに、それが攻撃面にも相乗効果をもたらし、指揮官から「チャンスに決め切れない」と散々指摘されていたFW陣も、田中と工藤の活躍で、決定力は解消の方向に進んでいる感がある。

 さらに川崎戦後、大谷はそれまで自分たちに意思の疎通が欠けていた点を猛省しつつ、「今日はどんなささいなことでもピッチ上で選手が話し、確認し合った」と、その日の好パフォーマンスの理由を語った。全北戦後にはレアンドロ・ドミンゲスも「ピッチ上でお互いが要求し合おうと話し合った。われわれは原点に戻れた」と、勝利が義務づけられた試合を見事に勝ち切った要因を述べていた。

 ディフェンディングチャンピオンの風格と自信を取り戻し、田中は力強くこう語る。
「リーグ戦はまだあと24試合ある。それを無敗で乗り切れば連覇はできる。5敗もしているので、もう負けていられません」

 今週末19日に長居スタジアムで行われるセレッソ大阪戦は、ACLの後だけに柏の真価が問われる試合となる。もしこの試合を良い形で勝ち切れたなら、もう柏は不振から脱却したと断言してもいいのではないだろうか。
 すでにリーグ戦は日程の約3分の1を消化してしまったが、前年度王者・柏の巻き返しはここから始まる。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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