賛否両論すっきりしない五輪代表選考 その基準の長所、短所とは=マラソン

加藤康博

男女とも「3人目」の選考が困難を極めたロンドン五輪マラソン代表。その基準については、議論が絶えない 【写真は共同】

 3月12日、日本陸上競技連盟理事会でロンドン五輪男女マラソン代表6人が選出された。男子は藤原新(東京陸協)、山本亮(佐川急便)、中本健太郎(安川電機)、女子は重友梨佐(天満屋)、木崎良子(ダイハツ)、尾崎好美(第一生命)とほぼ順当な顔ぶれながらも、男女とも「3人目」の選出に、選考の難しさが垣間見られた。昨年夏の世界選手権(韓国・テグ)を含め、4つのレースから3人の選出。レースによって気象条件やコンディションが異なるため、単純にタイムだけで比較できないとなれば、議論になるのは当然だ。

 今回、日本陸連が示した選考基準は

 1.2011年の世界選手権3位以内の入賞者で日本人選手最上位選手
 2.各選考競技会の日本人選手上位者の中から本大会で活躍が期待される競技者を代表選手とする

 世界選手権で一つ目の条件をクリアした選手がいなかったため、二つ目が今回の選考基準となった。しかし「上位者」とは何位までを指すのか、「活躍が期待される」とは何をもって判断するのかが分かりづらい。見る者にとって「曖昧な選考基準」と言われる理由はここにある。

「一発選考」のメリット、デメリットとは

日本陸連は代表選出について、今後も一発選考はないと明言した 【スポーツナビ】

 マラソンの代表選考は、1度の選考レースで上位3人を選ぶ「一発選考」を行うべきという声が以前から上がっている。五輪は言うまでもなく4年に1度の大舞台。その代表選手を選ぶのだから、日本国内でも1回の選考レースで競わせるべきという考え方だ。そこで勝負が決まれば選手もファンも分かりやすく、負けた選手はどんなに実績があっても「調整力不足」ということで落選の理由もつく。よく知られているように米国ではこの方式が採られている。

 しかし、今回の選考にあたり、日本陸連河野匡強化副委員長が口にした「男子は入賞を目指しながら少しでも上位を。女子は願わくばメダルを」という目標を達成するために「一発選考」が適しているとは言い難いのも事実だ。なぜなら、今の日本は選手層において「誰が出てもメダル争い、入賞争いができる」状態にないからである。

 例えば男子では昨年、ケニアには2時間3分台で走った選手が2人おり、エチオピアも今年に入ってから2時間4分で走った選手が3人いる。欧州にも2時間7分台の選手が散見される中、藤原以外の選手は持ちタイムがすべて8分台だ。安定感、レース内容、大舞台での勝負強さなど過去の実績や経験も加味し、「本番で最も力を発揮できる選手は誰か」という視点で選考を行うことは必要だとも言える。女子も男子ほどではないが世界との差は広げられている。高橋尚子(00年シドニー)、野口みずき(04年アテネ=シスメックス)と2大会連続で金メダルをとった隆盛はもう過去の話だ。

 さらに現実的な視点で言えば、各選考レースにはスポンサーもいれば、開催地の陸上関係者、それを伝えるメディアがいる。選考レースが一本化されれば、そこから外れた大会には選手やファンは集まらなくなってしまう。日本のマラソン界はこうした協力者によっても支えられている事実を考えれば、容易に「一発選考」には踏み切れないだろう。

 これは五輪の代表選考とは少し話がずれるが、日本ではマラソンがこれほど注目されていながら、現状、毎年の日本一を決める大会がない。だから「今、最も強い選手」が分かりにくいのだ。一応、日本選手権は存在するが、国内の3つのレースが毎年持ち回りで「併催」する形態をとっているため、選手にその意識は乏しく、形骸化しているのが実情である。今年のマラソン日本選手権はどの大会だったか?と聞いて答えられる関係者は決して多くない。
 日本最強を決める意味も含めて、五輪前年だけでも有力選手が一堂に集い、そこで真の日本一を決める。その結果で代表選手を決めるというのは、魅力的かつ明快な解決策になり得るのではないだろうか。

 ちなみに「一発選考」を行う国は米国以外には多くない。ケニアでは1月時点で候補選手男女各6名が選出され、その後レース内容やコンディションを含めて判断した後、4月30日に正式な男女各3名が発表される。エチオピアでは男女各7名の選手が4月末から5月までに候補として選ばれる。その後、ナショナルチーム合宿を行う中で選考され、6月に最終的な選手が決まる予定だ。

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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