なぜ、GK権田修一は2失点を防げなかったのか?=五輪最終予選シリア戦をGK視点で分析
2失点は「ミス」と呼ぶべきものなのか?
試合後、悔しそうな表情で引き上げる権田修一。彼の実力であれば、防げた2失点だった 【写真は共同】
1失点目は前半19分。相手のFKがジャンプした大迫勇也の頭をかすめてコースが変わり、GK権田修一はそのボールを処理し切れず。日本はオウンゴールで先制点を許した。
2失点目は1−1で迎えた後半45分。日本のクリアボールをヘディングで前方へ持ち出したアルサリフが思い切り良く右足を振り抜き、意表を突くロングシュート。ボールはスッと落ちながら、GK権田の頭上を越えてゴールネットに吸い込まれた。
試合後、権田は「何を言われても今日はもうしょうがない」「自分の守備範囲だと思っている。それを止めるのが試合に出る選手の責任」と語った。たとえ9回素晴らしいプレーをしても、わずか1回の凡ミスをすれば、批判の対象とされてしまうのがGKだ。あまりにも無慈悲だが、それがこのポジションの宿命ともいえる。
正直、心の中はもやもやしている。筆者はフィールドプレーヤー出身のため、あの2つの失点について、当然防ぐべきレベルのシーンなのか、それともある程度「仕方ない」と言えるシーンなのか、GKのプレーがいまいち感覚的に把握し切れないところがある。
果たして権田が喫した2失点は「ミス」と呼ぶべきものなのか? 仮にミスだとすれば、問題はどこにあったのか? あの2つの失点の瞬間に、何が起こっていたのか?
本稿ではそれらの疑問を解き明かすため、名古屋グランパスやジュビロ磐田ユース、ユニバーシアード日本代表などでGKコーチを務め、現在は静岡県内でGK専門のアカデミー、AGA(アダチ ゴールキーパー アカデミー)を立ち上げたGKコーチ、足立高浩氏の分析を聞き、GKのプレーに特化して構成した。
セービングが『どじょうすくい』になってしまった
「厳しい言い方をすると、あの『どじょうすくい』のような取り方は危険です。ボールのバウンドに対して『点で合わせる』イメージになってしまい、少しでもタイミングがズレると、あの場面のように、手の中からどじょうがすり抜けるようにボールがゴールネットへ吸い込まれてしまいがちです。また、体がボールの軌道に対して横向きになっているので、脇を抜けてしまいやすいのも欠点です」
では、どのようにセービングすれば良いのだろうか?
「ボールを点でつかみにいくのではなく、手のひらや腕、体を使って、ボールのコースに対して『壁を作る』意識が大切です。ピタリとキャッチできなくても、体のどこかに当たればボールは前に落ちるというイメージです」
権田は本来、このような『壁を作る』セービングをきちんとできるGKだ。後半7分に、ゴール右側からのアルスマのシュートに対して壁を作って右手でボールをはじき、素早くセカンドボールを押さえた場面はその好例だ。なぜ、失点の場面だけがうまくいかなかったのだろう?
「それはボールを大事に押さえようと思って、体全体で前傾して倒れ込みながら、ボールを取った後にうつぶせになるような姿勢でボールを取ろうとしたからです。真正面のボールならそれでも問題はありませんが、ボールが左右にズレると、倒れ込んだ脇をすり抜ける危険が高くなります。そしてボールは大迫の頭に当たって右にズレたのですが、権田は最初からFKに対して体を倒れ込ませて正面で捕球しようと対応を決めつけていたので、そのまま体の動きが止まらず、右にズレたボールを倒れ込みながら『どじょうすくい』で取ろうとして失敗したのです」
ピッチコンディションが悪いため、できるだけ大事にボールを押さえようと意識したことがあだとなり、その結果、不意のボールに対する柔軟性を欠く『倒れ込みセービング』になってしまった。
「セービングの時、GKが倒れ込んだり、地面に寝たりするのは一見、良さそうですが、対応がヤマカンになるという大きな欠点があります。寝ながらセービングしたがるGKは多いのですが、わたしは手のひらを常にボールに向けて壁を作り、構えた状態で飛んで来たボールに反応して防ぐように指導しています。いろいろな試合で権田のプレーを見ましたが、彼はそれができる選手。今回はピッチコンディションを意識するあまり、ボールを大事に押さえ込もうとする意識が強すぎたのではないかと思います」