なぜ、GK権田修一は2失点を防げなかったのか?=五輪最終予選シリア戦をGK視点で分析
片手セービングに切り替えられなかった
「(シュートを打たれた瞬間の権田の様子が映像に映っていないため)ちょっと確認し切れないところがありますが、防げなかった理由の1つは、権田が準備をできていなかったということかなと思います。彼は両手でボールを押さえようとして手を伸ばし、届きませんでしたが、彼の実力であれば、とっさに片手のセービングに切り替えることができたはず。おそらくFKの場面ならそうしたでしょう。それができなかったのは、ロングシュートに対する構えを含めた準備が十分ではなく、慌てて両手が出てしまったのではないでしょうか」
自分で試してみると分かるが、両手を伸ばす場合よりも、片手の方が10センチ以上遠くへ到達することができる。つまり、権田はこの場面のプレーの質をもう少し上げることができたということだ。また、手先をグーにしてパンチングするのと、パーにしてディフレクティング(※CKに逃げる時など、指先でボールの軌道を変化させてゴールの枠を外す技術)を使うのでは、指の長さの分、ボールに届く距離が微妙に変わる。GKのプレーは、ここまでディテールにこだわって練習を行っているのである。
「これが権田ではなく、普通のGKだったら、そもそもあそこまで両手を伸ばすことすらできなかったかもしれない。ただ、ほかのGKにはできなくても、わたしが権田のGKコーチなら、そこまで要求したい。それだけ彼に期待しているからです。1失点目も2失点目も状況は難しかったですが、ボールのコース自体は正面に近い。権田ならばセーブできる範囲内だったと思います」
2失点に絡んだプレー以外の権田については、「良かった」と足立氏は評価する。既出の後半7分のシーンを含め、後半6分には相手にシュートを打たせないように壁を作って間合いを寄せ、パスを選択させたところをフィールドの味方がクリアした場面もあった。権田のおかげで難を逃れたシーンもたくさんあるのだが……。しかし、GKのプレーが平均値で評価されることはない。わずか1つ、2つのプレーで、すべての評価を引っくり返される不条理な世界が存在するのだ。
「GKは非常に厳しいポジション。ただし裏を返せば、試合の結果を変えられるポジションでもあります。今回であれば、この2つのシーンを防ぐことで、『黄色信号』と言われているチームの状態を『青信号』にすることもできたわけです。それだけの影響力を出せるのがGK。喜びもすごくあるし、今回の権田のように苦しい思いをすることもあります。それがGKというポジションなのです」
<了>
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サッカーの守備練習はポジショニングの修正や体勢の整え方など、ボールを持っていない時の動きを鍛えるものなので、それ自体に特別な才能は必要ありません。
きちんとセオリーを理解すれば『誰にでも』取り組むことができるのが特徴です。チームとして連係の取れた守備を実行した時には、素晴らしい達成感を味わうことができるでしょう。
足立高浩(あだち・たかひろ)
1962年生まれ、静岡県静岡市(旧清水市)出身、清水商業高校、駒澤大学を卒業後、清水商業高校、静岡学園高校のGKコーチを経て、鈴与清水ラブリーレディース監督に就任。その後、名古屋グランパスエイトGKコーチ(トップチーム)、ジュビロ磐田GKコーチ(育成)、ユニバーシアード男子日本代表GKコーチ(2008年度)として数多くのタイトルを獲得。選手育成では川口能活のほか多くの名GKを輩出。現在は静岡県内5カ所でGK専門のアカデミー、AGA(アダチ ゴールキーパー アカデミー)を立ち上げ、GKの育成に情熱を注いでいる。