柏が体感した世界レベル、突きつけられた差=指標は国内の強豪から南米王者へ

鈴木潤

サントス戦で真の世界レベルを体感

サントスに敗れ、肩を落とす北嶋(9)ら柏イレブン。左端はネイマール=豊田スタジアム 【共同】

 準決勝まで来なければこの大会に出場する意味はほとんどなかったのだと、サントスと正面から相まみえたからこそ、その価値を知ることができた。「サントス」という大きな頂に到達し、真の意味で世界レベルを体感することと、オークランド・シティやモンテレイに敗れ、それを知らずして大会を終えるのとでは、柏レイソルが学び得る経験値には雲泥の差が生じていたはず。
 開幕前から、ネルシーニョ監督はしきりに「相手のことは気にせず、とにかくわれわれのスタンダードを打ち出していくことを考えるのが一番重要だ」と言い続けていた。

 スタンダード――。柏がこの2年間構築してきた技術、戦術、メンタリティー。昇格1年目のJリーグ制覇という偉業を達成する要因となった本来の力を発揮できれば、世界大会でも十分にやれる。ネルシーニョは言葉の中に自信をみなぎらせていた。だが、この大会はその柏のスタンダードが発揮しづらい状況下にあったことも、また事実である。

 1回戦から登場する柏は、準決勝まで中2日で3試合をこなさなければならなかった。しかも、リーグ優勝を決めた浦和レッズ戦からクラブワールドカップ(W杯)開幕までは5日の期間があったとはいえ、リーグ優勝関連のイベントや、FIFA(国際サッカー連盟)主催の催し物への参加に時間を取られ、実際に練習を行えたのは豊田スタジアムでの前日練習のわずか1日のみ。調整不足は明白であり、懸念材料の1つでもあった。

準備不足を乗り越え、手に入れた2勝

 オークランド・シティ戦で、ネルシーニョがJリーグ最終節の浦和戦と全く同じメンバーをピッチに送ったのは、おそらくリーグ戦のように普段の練習で選手の状態を見極め切れず、そのため珍しくスタメンをいじらずに浦和戦の良いイメージを持ったメンバーを組むことが最良だと判断したのではないのか。シーズンを通じて、ネルシーニョはほとんど同じメンバーを組まなかった。それだけに、この大舞台で2試合連続同じ顔ぶれを並べてきたことに、準備不足の“苦心”を垣間見た気がした。もちろん、彼にそれを尋ねても「そんなことはない」と否定されるだろうが。

 だからこそ、もし選手が慣れない国際舞台の独特な雰囲気にのまれる、気おされるようであれば、「われわれはアマチュアクラブだ」と実力差を再三にわたって叫んでいたラモン・トリブリエックス監督の言葉に反し、柏がオークランドに敗れる可能性も否めないとは思っていた。実際に調整不足の影響は時間を追うごとに影を大きくし、選手はミスを頻発。後半には足も止まったが、前半に挙げた田中順也と工藤壮人のゴールで辛くも2−0と逃げ切ったのである。

 そういう点では、過密日程がもたらす疲労は当然あったとしても、準々決勝のモンテレイ戦の方が中2日だったとはいえ、リカバーやトレーニングをプラン通りこなせたことで、全体的に見てもコンディションや連係面などは明らかにオークランド戦よりも上向き傾向にあった。内容に乏しかったオークランド戦とは一転してモンテレイ戦は柏らしさが際立った。前半はウンベルト・スアソ、セサル・デルガドら、モンテレイの強力攻撃陣に押し込まれ、個々のスキルなどJリーグとの違いを選手たちは体感したが、その後ネルシーニョから修正が入ると、選手も次第に適応していった。PK戦という形ではあったが、勝利にこだわる柏のチームスローガン“VITORIA”(ポルトガル語で勝利)を体現するかのように、最後には勝利を手中に収めたのである。

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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