柏が体感した世界レベル、突きつけられた差=指標は国内の強豪から南米王者へ

鈴木潤

インパクトは残せたが、個の力は大きな差を露呈

柏のネルシーニョ監督(右)も認めた「個人の技術」には、大きな差があった 【写真:杉本哲大/アフロスポーツ】

「オークランド戦よりもモンテレイ戦の方が良いプレーができた。次はもっと良くなる」 そう話したネルシーニョの言葉通り、サントスとの一戦は、相手のレベルや力関係を加味すれば、今季の戦いの中でも最高と呼べるパフォーマンスを見せたと言っても差し支えはないのかもしれない。

 サントスのムリシー・ラマーリョ監督が戦前から「柏の組織力はクオリティーが高い」と警戒の色を強めていたように、柏が2年間をかけて構築してきた「組織力」をもってすれば、世界屈指の強豪を向こうに回しても対等に渡り合えることを印象付けた。サントスが決勝(バルセロナの対戦が有力)を見据えて、極力省エネに徹した影響もあると思われるが、それでも大勝を予想していたブラジルのメディアは、52%とサントスを上回った柏のポゼッションに皆が声を上げて驚き、彼らはそれをラマーリョに質問としてぶつけていた。

 ラマーリョはネルシーニョとは40年来の付き合いで、現役時代はサンパウロで6年間一緒にプレーし、ルームメートでもあった「かけがえのない存在」(ラマーリョ監督)である。もちろん、ラマーリョはネルシーニョの監督としての手腕も熟知していたからこそ、柏のチーム力に「何の驚きもない」と断言していたが、準々決勝で対戦したモンテレイのビクトル・ブセティク監督は、はっきりと「驚きがあった」とその心情を述べている。ブラジルメディア、そしてモンテレイのブセティク監督の言葉から察しても、柏は世界にある程度のインパクトを残せたと考えていいだろう。

 一方で、ネルシーニョも認めた「個人の技術」には、大きな差があることを露呈した。実際にピッチ上で対峙した大谷秀和は「ネイマールとガンソに関しては、ボールを突っつくことすら難しい選手たちだった」と肌で感じた大きな差を口にしている。ラマーニョも柏の組織力を高く評価した上で、こと個の部分に関しては「われわれはフィニッシュの能力が高かった。サッカーとはこういうこと。能力の差が結果の差になる」。そう言い切っている。

“スタンダード”のさらなる進化を

 大会前から明言していた柏のスタンダードはいかんなく発揮した。しかし、現状のスタンダードでは、世界の強豪と互角の勝負に持ち込めるとはいえ、勝利をつかむには至らない。そういう現実を突きつけられた。ただ、冒頭でも述べたように、ここまで来たからこそ、その差を知ることができたわけであり、もしオークランド戦で敗れていたなら、あのPK戦でモンテレイに屈していたなら、その差を知らずして大会を後にしていた。この差を突きつけられるか、知らないままで終わるか、その違いはこれからの柏の目指すべき方向にも変化を及ぼす。

 1年前、昇格を決めた柏の目標はガンバ大阪であり、鹿島アントラーズだった。このクラブW杯の敗戦によって、選手たちのハードルは一気に引き上げられ、国内の強豪から“サントス”という南米王者へと指標は切り替わった。構築してきた“スタンダード”を、さらにグレードアップさせなければならない必要性を肌で感じたことでも、クラブW杯出場の意義は大いにあったと思う。

 幸いにも来季、柏はACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出場する。それを勝ち抜けば、またこのステージに立つことができる。突きつけられた個の能力の差は、そうたやすく埋まるものではないが、柏に大きなきっかけを与えてくれたことは間違いない。この大会を機に、柏のスタンダードはさらに進化を続けていく。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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