魔女スノーフェアリーの弱点、これが淀の“虎の子渡し”

乗峯栄一

米ポルノ映画界の観音菩薩

今週水曜下見所で。本田厩舎フミノイマージンと太宰啓介、GI取ってもおかしくないと思うが 【写真:乗峯栄一】

 世間ではあまり知られていないが、メリー・ポピンズにはもう一種類ある。アメリカ・ポルノアカデミー賞5部門を受賞したベロニカ・ハートの「メリー・ポピンズ」だ。

 城主のハロルドが女性家庭教師やメイドたちに片っ端から手を出して、そのたびに妃のカロリーナが嫉妬に狂って、その女性たちをクビにするから、城には執事や料理人やボイラー技士など男ばかりの使用人しか残らなくなった。この使用人たちも、これはまたこれで性欲の塊だ。奥様がクビにした女性使用人たちに「オレたちが奥様に話してやるよ、涙を拭きな」などと言いながら、全部食い物にする。悪の巣窟のような城だった。

「それにしても二人の息子グスタフとアドルフには家庭教師が必要だわ」と中庭の朝食会で妃のカロリーナが紅茶を飲みながら悩む。二人のバカ息子はどちらもとっくに二十歳を過ぎているから家庭教師などおかしいのだが、このバカ息子たちを立ち直らせるのは家庭教師しかないとカロリーナは信じている。
 執事に向かって、カロリーナが「新しい家庭教師を探してきてちょうだい」と命令したとたん、城門の呼び鐘が鳴らされる。「お名前は?」と妃が慌てて聞くと、「メリー・ポピンズです、息子さんたちの家庭教師にやってきました」と答える。しかしメリー・ポピンズではなく、“米ポルノ映画界の観音菩薩”と呼ばれたベロニカ・ハートであるのは歴然としていた。黒い傘に黒いシルクハットをかぶり、手にはペイズリー柄の大きなボストンバッグという、まさにメリーポピンズの出で立ちである。

返し馬に出てきたら言うんだ、「オレは煙突屋のディックだ」と

 でもこのメリー・ポピンズは、ジュリー・アンドリュースのメリー・ポピンズとは若干違っていた。子供達を遊園地に連れて行って楽しませ、矯正するのではなく、すべての家庭問題を“魔法のセックス”で解決する。

「子供達に教育する前にわたしに教育して欲しいなあ」と主人がベロニカの部屋を訪ねると、ビューッと北風が吹いて、お互い透け透けの下着姿になり、メリー・ポピンズが舌を出すと「おお、旦那さま、なんて立派な」などという状況になり、「メリー・ポピンズ、何て素晴らしいんだ、こんなこともあんなこともしてくれて、もうこれからは絶対浮気せず、立派な家庭を築くからね」などと、訳は分からないが、城主はなぜか正しい夫になる誓いを立てるのだ。バカ息子たちももちろんだが、執事や庭師やボイラー技師や、レズっ気のある妃のカロリーナまで「立派な家庭を築く」と誓いを立てることになり、その誓いを聞いたところで、ベロニカはまた傘を開いて、次のセックス行脚(あんぎゃ)に飛んでいく。

 ぼくらが「イギリスから来たメリー・ポピンズだ。傘開いてやってくる魔女だ」と思うから、あいつら本気で魔女のような気になって好き勝手やってしまう。返し馬に出てきたら、一斉に「正体は分かってるぜ、メリー・ポピンズ。オレは煙突屋のディックだ」と言うんだ。イギリス魔女の唯一最大の弱点はそこにある。これが淀の“虎の子渡し”だ。

◎ホエールキャプチャ、今回こそ苦労が実を結ぶ

今年の秋華賞前。こっちを向いてくれないホエールキャプチャと日高助手、今度こそ栗東での苦労が報われる! 【写真:乗峯栄一】

 そんなことで、わが女王杯◎はホエールキャプチャだ。あのアドマイヤグルーヴが牝馬三冠で苦杯をなめ続けてきたのを女王杯で晴らしたように、実力を持ちながら今年一年牝馬戦線で苦労してきた馬が女王杯を勝つ。栗東滞在での長期間の苦労が、人気が落ちた今回こそ実を結ぶ。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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