魔女スノーフェアリーの弱点、これが淀の“虎の子渡し”
そうか、スノーフェアリーはメリー・ポピンズか
今年の秋華賞後、誇らしげにGIゼッケンを付けたアヴェンチュラ 【写真:乗峯栄一】
「それはスノーフェアリーや。木枯らしが吹き始めるとやってきて、“これでもか”みたいな魔法見せて、ごっつい賞金わしづかみにして、すぐまたホウキに乗って去って行く」
「スノーフェアリーって何?」
「雪の精や。女なのに、テメエら、雪降らすぞって脅す強奪犯と言ってもいい」
「ええ? でもヒントには木枯らしの日に傘広げてやって来るって書いてあるよ。それにメリー○○○○って書いてあるし」と嫁は新聞のパズル面を見詰める。
「傘さして来るんなら、そりゃメリー・ポピンズやなあ。そうか、スノーフェアリーはメリー・ポピンズか? どっちもイギリスから来てるしな。うん、その場合はメリー・ポピンズでもスノーフェアリーでもどっちでもええことになる」
「何言うてんの。スノーフェアリーなんてマスに埋まらへんやんか」
「とにかくスノーフェアリーというのを何とかせんとアカンということや。マス目に埋まろう埋まるまいと関係ない。こいつを暴れさせたらアカンのや」
「そしたら、この前言ってた、あれ使ったらええやんか」
「あれって何や、洞ヶ峠か? 筒井順慶か? 天下の趨勢を高みの見物するってやつか? あんな所におったらアカンがな。ちゃんと淀まで進軍して馬券買わな」
「いや、それじゃなくて、“虎の子を渡す”ってやつよ。暴れる虎の子をどうやって暴れさせないかって、あれ」
「打たれまい、打たれまいとする心が原因じゃ。打たれて結構、いや一歩進んで打ってもらおうとする心じゃ、星飛雄馬くんか。大リーグボール1号を生んだ禅寺の坊さんの話か? Don’t think,Feel! 考えるんじゃない、感じるんだって、ブルース・リーがトン・ウェイ少年に教えた、あれか?」
「何言っとるか分からん、頭おかしいんちゃう?」
ぼくには既に分かっていた、メリー・ポピンズの弱点が
アカデミー賞5部門独占したジュリー・アンドリュースの「メリー・ポピンズ」にはその弱点がさらけ出されていた。ジュリーは歌がうまく、踊りも出来た。ロバートソン公園で大道芸人をしている内縁の夫、ディック・ヴァン・ダイクに「バート」と名乗らせ、「肉体関係はないのよ、ただの男友達」とバンクス家の子供たちに紹介する。二人の子供は「肉体関係て何?」と聞くが、「まあ、あれね。あげたり、もらったりすることよ」「三角定規と分度器の交換みたいなこと?」と聞く弟のマイケルに「That’s right!」とジュリーは股をこすりあげて笑った。
ジュリーは、ディックに、背中や脚に太鼓やシンバルやピアニカを付けた大道楽士をやらせて、一緒に歌を歌ったり踊ったりした。でもジュリーもディックも魔法使いでも何でもない。本当は煙突掃除屋だった。
♪チンチムニ、チンチムニ、チムチムチェリー、オレたちゃ煙突掃除屋さあ
と歌いながらロンドン中の屋根という屋根を回り、すすだらけになって煙突を掃除しているうちに、二人は煙突の中で結ばれた。「体ぢゅう、塗りたくってちょうだい、ディック!」と煙突の中でジュリーは叫び、「ロンドンいちのオレさまの煙突から真っ黒いススを噴き上げてやるぜ! ジュリー」とディックも訳の分からないことを叫んで盛り上がった。この時期、大英帝国最盛期のロンドンの男女は、ほとんどが煙突の中で結ばれた。
つまり「肉体関係のない男友達」がなぜ「ディック」という名前だったかということだ。歌と踊りと魔法を使う清純なはずのメリー・ポピンズが、なぜ煙突にこだわったかということだ。