本田抜きの戦い方を確立させる方法とは=金田喜稔氏が語るザッケローニジャパン進化論
本田(写真)不在の穴をいかに埋めるか。金田氏にその方法論を聞いた 【Getty Images】
「北朝鮮戦はギリギリで勝利、ウズベキスタン戦は負け試合だったけど勝ち点1を拾った。2試合が終わって勝ち点が4もあるのは、内容から考えれば日本はものすごくラッキーだったとワシは思うよ」
日本代表が苦戦を強いられた理由はいろいろあるが、その中でも特に深刻なのは「本田圭佑の穴をどのように埋めるのか?」「引いた相手をどのように崩すのか?」の2点ではないだろうか。右ひざの半月板を損傷し、バルセロナで手術を受けた本田は現在リハビリ中。今回のホームでのタジキスタン戦と、11月に行われるアウエー2連戦(タジキスタン戦と北朝鮮戦)への出場は絶望視されている。本田抜きでの戦い方を確立しなければ、苦戦は免れない。
また、中盤の構成力がアジアトップクラスの日本に対しては、対戦相手が初戦の北朝鮮のように自陣に引いてブロックを作ってくることも予想できる。ロスタイムまでもつれることなく、確実にゴールを挙げるにはどのような方法論がふさわしいのか?
金田喜稔流のメソッドを聞いた。
利き足の前にボールを置く感覚を身につける
「大切なのはボールの置きどころだよ。ファーストタッチでコントロールしたボールを、必ず利き足の前に置く。メッシもイニエスタもシャビも、うまい選手はみんな利き足の前にボールを置く。自分のポイントがあるんだよ。そこにボールを置けば、敵に寄せられても利き足でボールを動かして、逃げることもかわすことも自由自在。だからボールを持ちながら安心感があるんだよ。下手な選手はこの感覚が分からずに、何となく自分の周囲に大ざっぱにボールを止めてしまう」
このボールを置くポイントについて、ここ数年、海外で経験を積んでいる選手には明らかな変化が現れたと金田氏は語る。
「海外でプレーしている選手たちは、本当にレベルが上がったと思っている。本田も長谷部誠も香川真司もそうだが、2、3年前に比べると、必ず自分の利き足の前にボールを置くクセがついている。そこにボールを置かなければ、海外の選手たちの厳しいプレッシャーを受けて奪われてしまうからだよ」
海外の選手は体格が大きく、足のリーチも長い。Jリーグよりもさらに一段深いところまで足が伸びてくる感じで、体を入れてキープしたつもりでも背後からボールをつつかれることも多い。この感覚を、金田氏は自身の現役時代にも感じていたらしい。
「海外の選手とやるとき、ワシはいつものように得意なドリブル突破を仕掛けていた。そして縦に抜いた後にクロスを上げようとすると……、さっき抜いたはずの選手が追いかけてきて、最後のところでクロスにバチーンと足を合わせてくるんだよ。あのときの衝撃をワシは忘れんよ。そういう感覚を日ごろから肌で感じているかどうかが重要。プレッシャーの厳しい極限の状態で何ができるかといったら、感覚的に使える利き足に頼ってコントロールするしかないんだよ」
利き足の前にボールを置くことは、何も日本代表でなければできないような高等テクニックではない。小学生のころから基本として誰でも身につけられることである。金田氏は、近年の育成についても警鐘を鳴らす。
「最近の日本サッカーの育成は、右足と左足を平等に使うことばかりを教えて、基本的なことを教えていない。パスサッカーといっても、ボールを持てなければ話にならん。両足を平等に、なんて言われるのは、試合中に本当に厳しいプレッシャーを受けていない証拠だよ。もちろん、ワシは左足(利き足ではない側)を使うなと言っているわけではない。突破を仕掛けた後、左足でシュートしたり左足でクロスを上げることもある。そこに至るまでの基盤として、利き足を中心としたコントロールをしようということ。本田たち海外組の選手が意識してやっているかどうかは分からない。本能的にやっているのかもしれない。だが、できていない選手は意識して取り組んだ方がいい」
利き足の前に自然とボールを置く感覚。最低限、この能力を備えた選手でなければ、厳しいプレッシャーに耐えられる本田の代わりにはなり得ないということだ。