本田抜きの戦い方を確立させる方法とは=金田喜稔氏が語るザッケローニジャパン進化論

清水英斗

引いた相手を崩すためには

北朝鮮のように引いて守ってきた相手を崩す方法は「ミドルシュートを打つこと」「クロスを上げること」だと金田氏は話す 【Getty Images】

 次は「引いた相手を崩す」というテーマについて、金田流の解法を紹介する。

「当たり前のことだが、ミドルシュートを増やすこと。そのためには打つ選手をフリーにする努力を周りが行わなければならない。クロスを上げることも大事。ウズベキスタンや北朝鮮の対応を見ても、ボールが跳ね返された後や、ボールが頭上を行き来した後は、敵のDFがボールウオッチャーになりやすい。そこは狙い目だよ」

 アジアのチームにクロスが有効なのは、過去の予選でも同じことが言われていた。さらに金田氏の場合は……。

「まあ、ワシだったらドリブルで行くけどな。仕掛けて行けば、敵のポジションがずれて、うまくいけばカバーリングの選手まで引き出せる。そこでタイミングを逃さずにパスを出せばいいんだよ。ドリブルに対するディフェンスは、実はパスよりもものすごく疲れる。敵の体力を削る意味でも効果的だ。もっともウズベキスタン戦では、逆に日本が敵のドリブルに振り回されて疲れてしまったが」

 ミドルシュート、クロス、ドリブル。このような仕掛けをさらに効果的にするために、金田氏はもう1つポイントを教えてくれた。

「敵が引いてスペースを消しているのなら、こちらは全体を押し上げて、選手間の距離を短くするのがポイント。そしてボールを保持したまま、簡単には後ろに下げず、いつでも仕掛けられる位置でパスを回す。そうすると敵は常に緊張しなければならない。これを15分も続けたら、敵チームはバテるよ」

 ゲーム運びの理想としてはその通りだが、パスを回していればミスも生まれる。そこで大切になるのは、パススピードだと金田氏は言う。

「パススピードは速ければいいというわけではない。バルセロナを見ても、短いパスはゆっくりと出してつないでいる。強いパスを蹴らなければならないのは、選手間の距離が離れているからであって、距離を縮めておけばパスはゆっくりで構わない。それによってミスは減り、正確にプレーできる」

 そうやってゆっくりつなぎながら敵の体力を削っておき、ふとした瞬間にギアを入れ替えて急激に仕掛ける。こうした駆け引きも、日本が今後磨くべきポイントになるだろう。さまざまな方策が考えられる中で、ザッケローニジャパンはどのような道を歩むのか。ベトナム、タジキスタン戦の2連戦を楽しみに待ちたい。

<了>

サイドアタッカー “キンタ流”突破の極意

金田喜稔著 定価:1,000円+税/出版芸術社 ISBN978-4-88293-410-3 【出版芸術社】

 解説者でおなじみの金田喜稔氏が、日本サッカー史上最高のドリブラーと称された自身の経験をもとに語るサイドアタッカー論。システムや戦術論ばかり叫ばれる中、日本人の個人の力の低さをズバリと指摘。現代サッカーにおいて重要なサイド攻略のために必要な個の力、そして“キンタ流”突破の極意とは!?

金田喜稔(かねだ・のぶとし)
1958年生まれ、広島県出身。日産自動車サッカー部(現横浜F・マリノス)で国内タイトル7冠獲得に貢献。日本代表として154試合(内国際Aマッチ58試合)出場。日本代表国際Aマッチ最年少得点記録(19歳119日)は2011年6月現在でも破られていない。1991年に現役を引退。現在、テレビ・ラジオなどの解説やサッカーの指導・普及にあたる。2010年9月、日本サッカー名蹴会会長に就任。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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