不振の原因は? データが導く“イチロー不運説”は本当か
データ分析のプロ集団が不振に注目
200安打達成に注目が集まる中、“好守に阻まれ安打を失っている”データが発表された 【Getty Images】
先日、そんな記事が米有線スポーツ局『ESPN』のホームページ『ESPN.COM』に掲載された。
今年のイチローは、“ファインプレーによって多くのヒットを阻まれている”という内容で、8月24日(現地時間、以下同)の時点でイチローは、“リーグトップの31本を失っている”とのことだった。
“そのすべてがヒットならば、イチローの打率は3割2分9厘。約半分の16本でも3割1厘だ”(いずれも8月24日現在)と話は展開する。
記事を寄稿したのは、『ベースボール・インフォ・ソルーションズ』のロブ・バークハードという記者で、やはりイチローの不振を不思議に思い、要因を調べているうちに「一つの可能性にたどり着いた」そう。
『ベースボール・インフォ・ソルーションズ』とは、データを統計学から分析する『セイバーメイトリックス』の祖、ビル・ジェームスがコンサルタントを務めるデータ愛好家組織。分析結果を本にまとめたり、各球団、代理人、ゲームのソフト会社などにもデータを提供している。
言ってみれば、そのプロ集団が、あくまでも一因としながらも、イチローの低迷について、一つの結論を導いたわけだ。
記事が出た後、バークハード記者に連絡を試みるとすぐにメールが返ってきて、その後、電話で話を聞いた。
まず、リサーチ方法について。
もちろん、彼1人がメジャーの全試合をチェックできるわけではなく、何人かで手分けをして各試合のスコアブックを作り、そのときにファインプレーでアウトになったもの、また逆に、失策気味なのにヒットになったものなど、状況を細かく記入するのだそうだ。そして、試合が終わった後でデータを打ち込む。そこまでしておけば、あとはフィルターをかけて情報を呼び出すだけだという。
では、なぜ、イチローに目を付けたのか。やはり、簡単なことだった。
「イチローがなぜ不振かをまず考えた。いろんな要素が考えられたけど、圧倒的に年齢による衰えという見方が多かったので、他の要素はないか、と。それでいろいろ調べているうちに、好守によって阻まれたヒットが多いことに気付いた。あとはそのカテゴリーのリストを作ってみたら、イチローが抜きん出ていた、ということだ」
好守に阻まれたヒット数が突出
バークハード記者はいう。
「やはり、イチローの数は突出している」
ちなみに、トップ5人を紹介すると、こういう数字になる。
イチロー 31本
ジェーソン・バートレット 28本
ダニー・エスピノザ 27本
マイケル・ボーン 26本
J.J.ハーディ 26本
以下、6位から10位までは5人が25本で並んでいた。
イチローの場合はさらに、31本のうち11本が、野手の好守によってアウトになる確率が15%以下の“超”ファインプレーによって阻まれているそうだ。
せめてその11本がヒットになっていたとしたら、今頃、200安打が現実に近付いていたかもしれない。
ところで、このデータは、分からなかった二つのことの答えになりうる。
まず、内野安打の数。ここ4年の平均は60本だが、今年は9月4日現在、わずかに36本である。
この現象を年齢によるスピードの衰えと捉える米メディアは多いが、ファインプレーのせいだと仮定すれば、説明がつく。
また、少し前にやはり、データ分析の精鋭集団が運営している『fangraphs』が指摘していたが、通算3割5分3厘のBABIP(ボールがインプレイーになったときの打率)が、今年は2割9分6厘(9月3日現在)しかないことも、ファインプレーによるものと考えれば、つじつまが合う。ちなみに、『fangraphs』も不運を匂わせていた。