不振の原因は? データが導く“イチロー不運説”は本当か

木本大志

過去2年のデータで不運説に矛盾も

不振の要因をデータで解明する事はできず、シーズンは残り1カ月を切った 【Getty Images】

 ただ、電話をした後もメールでバークハード記者とやり取りしていると、矛盾するデータが出てきた。

 なんとイチローの場合、昨年も33本、おととしも29本のロスがあったのである。オリジナルの記事にその数値は示されていなかったが、問い合わせるとバークハード記者が調べてくれた。
 つまり、今年の数字を他の打者と比べると差が際立つが、過去2年と比べた場合、差異が見られないということは、不運が今年の不振の要因とは言い切れなくなってしまうのだ。

 残念ながらこの時点で不運説は弱まったが、派生して別の興味も沸く。昨年、一昨年はその不運がなければ、どれだけヒット数が伸びていたのかと。
 そんな話を記者仲間らとしているときに、2004年はどうだったのか、という話になった。
 2004年にはメジャーの年間最多安打記録を更新する262安打を放った。あのときのロスは何本ぐらいなのか。本数によっては、打率が4割に乗る。
 それをバークハード記者に問い合わせると、答えは「20本」と返ってきた。
 ということは……。バークハード記者もこちらの問い合わせの意味を察したようで、「その場合の打率は4割1分だ!」とやや興奮気味に返事を書いてきた。

原因解明に至らず残りは1カ月

 無論、こうしたやり取りは、“タラレバ”の最たるもので、ベテラン記者の多くは、あの記事にあまり興味を示さなかった。しかし各チームのゼネラルマネージャーやファンタジーベースボールの愛好家らは、翌年以降、大化けする可能性のある隠れ要素として、このデータを活用しているようだ。

 さて、ようやく不振の一因がデータによって示されたと思われたが、イチローの不振解明の決め手にはなり得なかった。
『fangraphs』によれば、今年、イチローがボール球に手を出す確率は36.0パーセント(9月3日現在)でキャリアハイ。エリック・ウェッジ監督などは、それを不振の要因と考えているようだが、昨年は35.6パーセントで、おととしは32.1パーセント。それでも200安打を打ってきた状況を考えれば、ボール球に手を出すことが主要因とは考えにくく、結局、不振の要素かと思われる数値は、今回のようにすぐに別のデータで否定されてしまうのが常だ。

 ますます混迷を深める、イチローの2011年が残り1カ月を切った。
 200安打までは、あと40本。残りは23試合。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント