瀬古氏が語る、世界陸上男子マラソン展望「自分に負けたレースをしてはいけない」

構成:加藤康博

瀬古氏は、初出場の5選手について「怖いもの知らずという利点を生かしてほしい」と話す 【加藤康博】

 陸上の世界選手権が韓国・テグで開催されている。今大会の最終日(9月4日)に行われる男子マラソンに出場する5人、北岡幸浩(NTN)、川内優輝(埼玉県庁)、尾田賢典(トヨタ自動車)、堀端宏行(旭化成)、中本健太郎(安川電機)はいずれも初出場。昨年11月のアジア大会(中国・広州)で銀メダルを獲得し、早々に代表内定していた北岡を除く4人は2011年に入り、すべて2時間10分切りを達成しての代表入りだ。

 しかし近年、世界の男子マラソンはアフリカの選手を中心に高速化が進み、日本は苦しい戦いを強いられている。今大会でなんとしてもロンドン五輪へ向けた光明を見出したいところだ。

 出場する日本男子マラソン陣はどのような顔ぶれなのか、またどのような戦い方をすべきなのか。レースの見どころと併せ、瀬古利彦氏(現・エスビー食品スポーツ推進局局長)に聞いた。

世界大会の経験不足をどう跳ね返すか

 今大会の男子5人は全員が世界選手権初出場というフレッシュな顔ぶれですね。日本の男子マラソン界が活性化するために、こういった新しい選手たちが世界に挑むのは喜ばしいことです。

 とはいえ、世界選手権は厳しい戦いになることは間違いありません。スピードがあり、スタミナも備え、かつ暑さにも強い世界の強豪ランナーが多数参加します。そこに挑むにあたって期待したいのはまず尾田選手。彼はスピードがありますから、レースの流れにさえ乗れれば日本人の中でも主役になるのではないでしょうか。

 対して川内選手はスタミナ型の選手。今年の東京マラソンでも後半の強さを見せて尾田選手に勝っています。世界選手権の舞台でも粘って、後半に順位を上げていければ面白いでしょう。

 ただこの2名はもちろん、日本代表5人すべてに言えるのは世界大会の経験が乏しいこと。これが不安材料ですね。私も現役時代、何度も海外のレースに出場しましたが、それでもいつもレース前には緊張していました。怖いもの知らずでレースに臨めるという利点を生かし、こちらの不安を吹き飛ばす思い切った走りを見せて欲しいものです。

安定した結果を残す北岡に期待

 夏のマラソンはやはり難しいと言わざるを得ません。レースはもちろん、スタートラインにたどりつくまでの練習が大変です。暑さで疲労は抜けにくいですし、食事もなかなかのどを通らなくなる。かといって練習をしないわけにもいきません。今の選手は海外や標高の高い場所などで準備することが多いですが、それでも冬のレースに比べると万全の体調を作るのは数段難しくなります。

 その夏のレースで成功するのは、やはり普段から安定して結果を残している選手だと私は思います。そういう選手は、自分の能力の発揮方法を知っているため、条件が厳しい夏のレースでもアクシデントを起こさず、しっかり走りきれる。これは世界選手権という大舞台で結果を出すためにも、とても大切なことなのです。

 その点から期待できるのは北岡選手。彼は過去2戦のマラソンキャリアですが、2回とも安定した走りを見せていますし、ハーフマラソンでも日本代表として結果を出しています。無理をして自滅することもないですし、後半にジワジワと順位を上げてくるのではないでしょうか。

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