瀬古氏が語る、世界陸上男子マラソン展望「自分に負けたレースをしてはいけない」
レースはスローペースの可能性 川内、尾田の走りに注目を
東京マラソンで好走した川内(左から2番目)と尾田(右から2番目)。気候次第で大きく展開が変わるが、二人の走りに注目だ 【加藤康博】
まずは30キロまではしっかりと先頭に近い位置に付いて欲しいですね。マラソンは30キロからが勝負ですから、その前で離されてしまうと残念な結果になってしまいます。そして30キロを過ぎると、アフリカの選手は急激にペースを上げてくるでしょう。その時に日本人選手はどのような判断をするかに注目です。
メダルを狙うのであれば、ここで攻めていく必要がありますし、下位入賞を狙うのであればここで無理せず、後半になって順位を落とした選手を拾っていく作戦になります。今年の東京マラソンでも30キロを過ぎて尾田選手が前を行く外国人選手を追い、川内選手はそれを見送りって後半にペースアップ。結果的に川内選手が尾田選手を抜き去り、2位に入りました。
今大会でもそれに近い展開が見られるかもしれません。しかし尾田選手は一度、その失敗を経験していますし、体も覚えているでしょうから、今度は意地を見せるはずです。世界大会では、日本人選手が自分と近い位置で走っていると安心できますので、この2名は途中までお互いをマークしながらレースを進めることも考えられます。その横で安定した成績を残している北岡選手がジワジワと後半に順位を上げ、日本人最上位に入ることも十分にあり得ます。
また、国内での実績は劣りますが、堀端選手は身長189センチの大型ランナー。24歳と若く、いつ大きく成長するか分かりませんし、中本選手もここにきて大きく自己ベストを更新している選手です。ともに粘った走りを期待したいですね。
日本男子選手は今大会、8位入賞を目標としているようです。結果はともあれ、途中でレースを諦めたり、大きくペースを落としたりするような「自分に負けたレース」はして欲しくないですね。せっかく出場する世界の舞台。失敗を恐れずに、全力でぶつかること。それがロンドン五輪へつながっていくのだと思います。
<了>
1956年7月15日三重県生まれ。四日市工高から陸上競技を始め、インターハイでは2年連続で800メートル、1500メートルを制す。早大進学後、中村清監督(当時)の下でマラソンへの挑戦を開始。大学3年時の78年12月の福岡国際マラソンを、当時の日本学生最高記録で制し、マラソン初優勝。以後、日本のマラソン界をけん引する選手として活躍した。五輪では幻となった80年のモスクワ、84年ロサンゼルス(14位)、88年ソウル(9位)の3大会で代表を経験。89年の現役引退までマラソン通算15戦10勝。引退後は早大競走部コーチ、エスビー食品陸上部監督を歴任。現職はエスビー食品(株)スポーツ推進局局長。