ドルトムントの強さの秘密=熱血指揮官と若き選手たちの優勝への道

ミムラユウスケ

「おとぎ話」のようなドルトムントの優勝

若きドルトムントの優勝は「おとぎ話のようだ」と評された 【Bongarts/Getty Images】

 香川真司が所属するドルトムントが9シーズンぶりにリーグ優勝を果たした。今季の戦いぶりについては、しばしば「おとぎ話のようだ」と評される。おとぎ話とは、ドルトムントの成長の物語である。

 CEOのハンス・ヨアヒム・バツケは優勝の秘訣(ひけつ)をこう分析する。
「若くて、ハングリーで、才能のある選手たちが成長を遂げたからなんだ」

 現在のチームの平均年齢は『キッカー』誌によると24.21歳で、ドイツ・ブンデスリーガ優勝チームの歴代最年少。また、昨シーズン終了後から現在までの間に、18歳のマリオ・ゲッツェや22歳のマッツ・フンメルスら、20歳前後の5選手がドイツ代表にデビューしている。

 おとぎ話を作り出せた最大の要因は、ユルゲン・クロップ監督がいたからだ。

 実は、面白いデータがある。ちょうど3シーズン前、クロップ監督が就任する直前の2007−08シーズンに、ドルトムントはドイツカップ決勝に駒を進めた。延長戦の末、バイエルンに1−2で敗れたこの試合のメンバーには、現在のレギュラーが1人もいない。レギュラークラスというくくりで言っても、右MFを務めるヤクブ・ブラチコフスキが入っているだけ。つまり、クロップが就任してからの3年間で、現在の主力選手が形成されていったのだ。彼らが成長したからこそ、ドルトムントは今シーズン優勝することができたと言える。

クロップシステムの鍵はプレスにあり

 クロップ監督の手腕として挙げられるのは、チームにプレスの意識を植え付けたことだ。「クロップのシステムはプレスによって成り立っている」と『WAZ』紙は指摘し、クロップ自身も次のように力説していた。

「試合では相手のボールに対して、100%の力でプレスをかけにいくように命じている。それがわたしのプランであり、絶対に譲れない部分なんだ」

 ディフェンスラインのリーダーであるフンメルスは、その仕組みを端的に説明する。
「基本となるフォーメーションは4−2−3−1。守備時には、1トップを残してハーフウエーライン上に3人が並び、その後方に守備のブロックを作る。そして、そこから前に出ていき、相手チームのボールを持った選手に対して4人が襲い掛かるんだ」

 ドルトムントは2月26日、バイエルン相手に敵地ミュンヘンで20年ぶりに勝ち点3を獲得した。この試合でチームのプレスの意識を象徴するシーンがあったと、ヌリ・シャヒンは語る。

「あの試合の写真をたまたま見る機会があったんだけど、ロッベンがボールを持ったときに、うちの3選手が襲い掛かっているところを写しているものがあってね。それはまさに、チームのスタイルを反映するものだったよね」

 ドルトムントは1試合平均で約125キロを走るというデータがあり、これは平均すると、相手チームよりも選手1人あたり1キロ以上長く走っている計算になるという。ドルトムントの選手たちは強靭(きょうじん)なスタミナを武器に、徹底したプレスをかけるのだ。リーグ戦を1試合残した現時点でのチームの総失点は21点。最終節を無失点で乗り切れば、バイエルンの持つブンデスリーガの歴代最少失点(21失点)の記録に並ぶことになる。

突出したチームワークの良さ

 こうしたスタミナを身につける秘訣は、シーズン前のキャンプにあったとシャヒンは振り返っている。

「シーズン前の休みはうちのチームが一番長かったんだよ。でもね、いざキャンプが始まると、監督は容赦なかった。すごく暑くて、昼前には37度くらいになる日もあったんだけど、本当に長い時間、走らされたんだ。でも、あの準備期間が今のチームを形作ったんじゃないかな」

 そのシーズン前に行なわれたキャンプでは、クロップ監督が力を注いだことがもう1つある。チームワークを深めることだ。当時、加入後間もない香川は少し驚いていた。

「ミーティングでは、意外と戦術的な話ではなくて、チームがどうやって団結するかについての話が多いんですよ」

 このキャンプでは、選手みんなでロッククライミングやカヌーにも挑戦した。それらのメニューを通じて、チームの団結を促したのだ。

 ドルトムントは香川と同じ22歳前後の選手が、主力の大半を担っている。レギュラーの中でも、香川のほかに6選手が同世代だ。同じ年代の選手の仲の良さは際立っている。にもかかわらず、彼らは年配の選手とも濃密な関係を築いている。
 昨冬のウインターブレークの間、22歳のドイツ人FWケビン・グロスクロイツは、ブラジルでバカンスを過ごした。理由は簡単。チーム最年長のブラジル人DFデデがいるからだ。デデとともにブラジルへ行き、そこで骨を休めた。シーズン中には毎日のように顔を合わせるのに、オフの期間までチームメートと一緒に過ごすのだ。さらに、グロスクロイツは今後、香川とともに日本でバカンスを満喫したいと考えているという。

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著者プロフィール

金子達仁氏のホームページで募集されていた、ドイツW杯の開幕前と大会期間中にヨーロッパをキャンピングカーで周る旅の運転手に応募し、合格。帰国後に金子氏・戸塚啓氏・木崎伸也氏が取り組んだ「敗因と」(光文社刊)の制作の手伝いのかたわら、2006年ライターとして活動をスタートした。そして2009年より再びドイツへ。Twitter ID:yusukeMimura

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