戦力充実のレッドソックスが大本命=MLBアメリカンリーグ見どころ

出村義和

クロフォードとゴンザレス(写真)が加入し大本命に推されるレッドソックスなど、ア・リーグの勢力図は―― 【Getty Images】

 2011シーズンが現地3月31日(日本時間4月1日)に開幕する。
 昨年はノーマークに等しかったジャイアンツが56年ぶりのワールドチャンピオンに輝くなど、数年来見られるメジャーの実力格差縮小傾向を際立たせるシーズンになった。だが、今年は現地メディアで早い時期から、アメリカンリーグではレッドソックス、ナショナルリーグではフィリーズが大本命といわれ続けている。実際、キャンプ取材でアリゾナ、フロリダを回っても、ワールドシリーズでの両チームの対決を予想する声が圧倒的に多かった。しかし、「予想とは外れるためにある」ともいわれる。そこで、大本命と推されるチームの強さを分析しながら、番狂わせの可能性を探ってみよう。まずは、ア・リーグから――。

補強に成功、戦力で群を抜くRソックス

 「レッドソックス強し」の根拠はオフの積極果敢な補強にある。まず、着手したのが、打線のテコ入れだ。ライバル球団のレイズからFAになったオールラウンド選手、カール・クロフォードを7年1億4200万ドル(約116億円)、パドレスとのトレードで4年連続30ホーマーをマークしているエイドリアン・ゴンザレスを獲得した。2人はただ打つだけではない。ともに、ゴールドグラブ賞に輝く守備の名手でもある。そのうえ、クロフォードは盗塁王4回の球界を代表するスピードスターだ。この2人の加入でレッドソックスは打撃力だけでなく、総合力が大幅にアップした。

 ブルペンも一段と充実した。ホワイトソックスのクローザーだったボビー・ジェンクス、レイズで渋い働きをみせていたダン・ウィーラーを加えて、7回以降の盤石な体制を作り上げた。
 先発陣はエースとして期待されるジョン・レスター以下、5番手の松坂大輔まで15勝以上の実力を持つトップクラスがそろう。故障者が出た場合は、魔球のナックルボールを操るティム・ウェークフィールドが控えるという豪華な顔ぶれだ。

 昨年はチームの柱となるダスティン・ペドロイア、ケビン・ユーキリス、そして快速ジャコビー・エルズベリーが相次いで故障したことが響いて優勝争いから後退したが、今年はそろって健康な状態で開幕を迎える。しかも、若手の成長などもあり、控えの層も厚くなっている。つまり、レッドソックスはあらゆる部門で抜きん出た戦力を持っている。だからこそ、リーグ優勝はもちろん、2007年以来のワールドシリーズ優勝の呼び声が高いのである。

ヤンキースは先発投手陣に不安

  レッドソックスと同じ東地区で足元をすくえるチームがあるとしたら、やはりヤンキースだろう。今季37歳になる主将のデレク・ジーターを始め、中心選手の高齢化が進み、世代交代期に入っていることでチーム全体のスタミナ面の不安はあるが、レベルの高い戦力を持っている。特に、オープン戦から絶好調のアレックス・ロドリゲス中心の打線は得点力が期待できる。
 しかし、問題はアンディ・ペティットが引退した先発投手陣だ。別格のCC・サバシア以外、常に不安がつきまとう。4番手に抜擢(ばってき)されたイバン・ノバの成長が大きなカギを握りそうだ。先発に比べて、ブルペンは昨年のセーブ王、ラファエル・ソリアーノの加入で充実。打線が序盤から打ちまくり、強力ブルペンで逃げ切るというパターンが確立できれば、レッドソックスを脅かすことはできるかもしれない。

 昨年の地区優勝レイズは、若手先発陣は期待できるものの、主力がごっそり抜けて戦力不足は明らか。ただ、かつてレッドソックスとヤンキースでプレーしたジョニー・デイモンと、レッドソックスで活躍したマニー・ラミレスの加入でレッドソックス戦、ヤンキース戦は大いに盛り上がるに違いない。

中地区はツインズ、西地区はアスレチックスに注目

 中地区は今年も投打のバランスが取れたツインズ、大砲アダム・ダンを加えたホワイトソックス、そして名将ジム・リーランド率いるタイガースの三つどもえレースになる気配が濃厚。従って、どのチームも決め手に欠け、理想的な戦力を整えるレッドソックスに対抗するチームは見当たらない。強いて挙げれば西岡剛が移籍して、スピードを加え、多彩な攻撃を仕掛けられるツインズだろう。しかし、地区優勝3連覇を果たしたとしても、ポストシーズンで12連敗中という大不振。レッドソックスには歯が立たないかもしれない。

 昨年、初のリーグ優勝を飾ったレンジャーズ所属の西地区は、そのチャンピオンチームが原動力となったエースのクリフ・リーとの再契約に失敗し、戦力ダウンしている。MVPのジョシュ・ハミルトンが中核の打線は破壊力十分だが、試合をつくる先発投手陣はどうみても力不足。仮に西地区で優勝できても、レッドソックスとの直接対決で勝てるとは思えない。

 むしろ、面白いのは松井秀喜が移籍したアスレチックスだ。エースのトレバー・ケーヒル以下の若手先発陣は、昨年チーム防御率トップの成績を残したことで、すっかり自信を持っている。サポートするブルペン陣にはブライアン・フエンテス、グラント・バルフォアという左右のベテランを補強してきん差勝負の体制を整えた。これで、松井を始め、デービッド・デヘスス、ジョシュ・ウィリンハムが期待通り勝負強い打撃をみせれば、昨年のジャイアンツのようなチームになれる可能性がある。しかも、若いチームだけに爆発力も期待できる。なかなか興味深い存在だ。

 高橋尚成の所属するエンゼルスは、投手陣はレベルに達しているが、攻撃面で疑問符がつく。
 マリナーズはやはり攻撃陣が弱く、レッドソックスのような強力投手陣に立ち向かえるのはイチロー以外に見当たらない。昨年のような100敗を喫することはないだろうが、残念ながら最下位を免れれば上出来というシーズンになりそうだ。

 こうしてみると、やはりレッドソックス大本命は揺るぎそうもない。しかし、何が起こるか分からないのがスポーツであり、野球だ。玉手箱の蓋は間もなく開く――。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

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