ザッケローニジャパンのセットプレーを検証する

清水英斗

現代サッカーの均衡をぶち破る、セットプレー

韓国戦での細貝の得点など、セットプレーをいかに得点に結び付けるかが、重要になっている 【写真:AP/アフロ】

「現代サッカーにおける得点の3割は、セットプレーによって生まれている」
 これは実際にスペインの調査機関で立証されている事実である。アジアカップのザッケローニジャパンが、決勝までの6試合でセットプレーから挙げたのは全14得点のうち3得点。一方、全6失点のうち、4失点はセットプレーから喫したものである。計算してみると、全得失点の3割5分は、実際にセットプレーから生まれたことになる。
 また、見逃せないのはその得失点の内容だ。ヨルダン戦の素早いショートコーナーからの吉田麻也のロスタイム弾、シリア戦と韓国戦のPK、韓国戦の終盤に相手FKによる失点で引き分けに持ち込まれたこと……。PK判定については異論もあるかもしれないが、セットプレーによる得失点が、試合の結果を左右するものになっているのは事実だろう。

 この傾向はワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会にも見られた。優勝したスペインが、準決勝のドイツ戦で挙げた唯一のゴールはCKからのプジョルのヘディング。さらに準優勝を果たしたオランダが、準々決勝で最大の強敵と見られていたブラジルを沈めたのは、FKとCK、2発のセットプレーからである。
 守備がきちんと組織されたチームを相手に、流れの中から美しくゴールを奪うのは容易ではないが、そのような均衡をぶち破る手段として期待されるのがセットプレーだ。厳しい試合になればなるほど、セットプレーの重要性は高まる。

 もちろん、W杯・ブラジル大会を目指す日本代表にとってもその重要性は変わらない。果たして、アジアカップにおけるザッケローニジャパンのセットプレーは適切に行われたのか? 何が良くて、何が良くなかったのか? 勝敗を分けるディテールはどこに存在したのか? スペインでサッカーの指導を学び、『攻守のセオリーを理解する セットプレー戦術120』(池田書店刊)の監修者でもある倉本和昌、藤原孝雄の両氏に、アジアカップにおけるザッケローニジャパンのセットプレーの分析をお願いした。

細貝の“詰め”におけるポジショニング

キッカーの助走に合わせてスタートすることで、勢いに乗ってセカンドボールに詰めることができる 【池田書店】

 まずは日本の良いセットプレーから紹介したい。韓国戦の延長前半7分、岡崎慎司が倒されて得たPKのシーンだ。キッカーの本田圭佑は直接決めることができず、ボールをGKチャン・ソンリョンにはじかれてしまったが……。
「このとき韓国の選手たちは、ペナルティーエリア、ペナルティーアークのライン上に並び、そこからこぼれ球にダッシュしました。しかし、細貝萌はラインから5メートルほど離れた後方の位置に立ち、本田圭がPKの助走に入ったと同時に、勢いをつけて走り始めていたのです」(藤原)※図1参照

 そして本田圭がボールを蹴った瞬間、両チームの選手が一斉にゴール前へなだれ込む。このとき「ゼロ」の状態からスタートした韓国選手と、すでにスピードに乗っていた細貝。どちらが先にボールにたどり着けるのかは明白である。
「ちなみに日本は右から前田遼一、中央から細貝、左から岡崎が同じように走り込みました。前田は少しタイミングが早すぎましたが、岡崎は良いタイミング。キッカーの本田圭を含めると、日本は4人で全方向から詰める準備ができていました。これはW杯・南アフリカ大会で、スペインが実践していたセオリーです。準々決勝のパラグアイ戦で、シャビ・アロンソがPKを相手GKに当ててしまったとき、セスクは細貝と同様の動きで走り込み、先にボールに追いつき、相手GKに倒されました。スペインはこのような試合中のPKの場面もトレーニングしていたそうです。今回の日本も準備ができていました」(藤原)

 結果としてボールは細貝のところにこぼれたが、日本はあらゆる方向への準備ができていた。ささいなことと感じるかもしれないが、そのディテールへのこだわりが、韓国戦の結果を左右したのである。あのとき、本田圭がPKを直接決める可能性は80%くらいはあっただろうか。しかしそこで満足せず、それをさらに85%、90%と、少しでも可能性を高めるための努力を日本は惜しまなかった。称賛されるべきプレーである。

香川と本田圭の壁の位置にミスがあった

香川と本田圭は、右利きのキッカーに対応したポジションを取っていた。これでは、左利きのキッカーのボールを防ぎにくい 【池田書店】

 次は修正点を分析したいと思う。カタール戦の後半18分、日本の左サイドで与えたFKを左利きのファビオ・モンテシンに直接決められたシーンだ。GK川島永嗣がニアサイドを抜かれてゴールが決まったが、この場面にはどのようなミスがあったのか?
「一つは、壁に立っていた香川真司です。枚数が1枚だったことは、直前で吉田が退場して10人になっていたので仕方ないでしょう。ただし、香川が立っていたのは、相手キッカーが右利きの場合のポジションであり、キッカーが左利きならばもう1メートル、ゴールラインから離れる方向へ動くべきです(図2&図3参照)。同じことは中央でゾーンディフェンス(マークを持たずにボールを跳ね返す役割)を担当していた本田圭にも言えます。彼があと1メートル、ゴールエリアの角に向かって移動していればボールに触れたはず。しかし失点の場面では、相手の斜め方向への飛び出しにのみ込まれ、全く仕事ができていませんでした。壁の位置は、ボールの位置だけでなく、キッカーの利き足も考慮した上で、微調整しなければいけません」(藤原)

香川と本田圭が約1メートル、ポジションをずらせば、左利きのキッカーの軌道に対応しやすくなる 【池田書店】

 さらに、GK川島が飛び出しづらい状況だったことも失点の原因の一つである。
「日本の守備はマンツーマン。ゴール前の6人のカタール選手に対してはマークできていましたが、ゴール前がこれだけ混雑すると、GKが飛び出しにくくなり、無理に飛び出すことで事故が起きる可能性も高くなります。ただし、このあたりはチームの戦術なので良し悪しもある。一概にミスとはいえないでしょう。今回のケースに関しては、香川&本田圭の位置が修正点として挙げられると思います」(藤原)

 このファビオ・モンテシンのFKによるゴールは、日本に深刻なダメージを与えた。試合は残り30分を切っており、10人で1−2のビハインドを跳ね返さなければならない。選手たちも試合後、「正直もうダメだと思った」とそのときの心境を告白している。それでも、香川と伊野波雅彦のゴールで見事、この苦境を乗り越えた日本代表には感動すら覚えたが、一方、本来ならばこれは避けるべきシチュエーションであったことも忘れてはならない。大会を優勝で終えた今こそ、だ。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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