“常勝”鹿島に突きつけられた課題=岐路に立つ79年組体制

田中滋

4連覇の可能性はかなり薄かった

4連覇を逃した鹿島は、最終的に4位に沈んだ 【写真:アフロ】

 72、63、66、60。
 オズワルド・オリベイラが率いるようになった4シーズン、鹿島アントラーズが獲得した勝ち点を並べると、こういう数字となる。今季と3連覇を果たした昨季との数字を比べてみても差はわずかに6なのだ。しかし、終盤に追い付かれてしまった第26節の湘南ベルマーレ戦などを、しっかり勝ち切ったとしても名古屋グランパスの独走を止めることはできなかっただろう。

 なぜなら、数字を見れば明らかだが、鹿島の勝ち点が70を超えたのは終盤の9連勝で優勝をもぎ取った07年の1度しかない。しかし、第29節の直接対決を前にして、名古屋の勝ち点はすでに60に達していた。残り6試合を五分五分の成績だったとしても、勝ち点は69まで延びてしまう。そうなると鹿島のペースでは、追い付くのが難しかったのだ。

 そのことは、選手たちも痛感していた。まだ名古屋との直接対決を残し、わずかながら逆転優勝の可能性が残された時期でも、岩政大樹は「これだけ走られてしまうと、うちの戦い方を考えると厳しいんですよね」と、ため息混じりに漏らすこともあった。確かに、ヴィッセル神戸に引き分け、ジュビロ磐田に敗れるなど、シーズン終盤の戦い方はふがいないものだった。しかし、今季は、3連覇したシーズンと比べると、まったく違う様相を持ったタイトル争いだったのである。過去3年と同じように戦った鹿島の4連覇の可能性はかなり薄かった。

チーム力を表す二つの要素

 変えたのは、もちろん名古屋だ。鹿島の鈴木満常務取締役強化部長も、そのことを強く認識していた。
「これまでの名古屋は100の戦力を用意しても、その半分の50くらいの力しか出せなかった。だから、うちが80の戦力だとしても、発揮率を高めて70にすれば勝てた。でも、今年は戦力を150にしてきた。そうすると発揮率はそのままでも75になる。大概、どこのチームもそこまでできないけど、久米さんはやり切った。いまの時代、そこまでやり切るは久米さんしかいない」

「久米さん」というのは名古屋の久米一正ゼネラルマネジャーのこと。くしくも2人は中央大学サッカー部の先輩と後輩になる。久米が柏レイソルに在籍していた時期から、強化担当者同士しのぎを削り、久米にとって鈴木の存在は常に「目の上のたんこぶ」だったのだ。
 鈴木によると、チームの力を表すには二つの要素があるという。一つは、優秀な選手がいればいるほど高くなるチームが持つポテンシャル、つまり戦力の「絶対値」だ。もう一つが「発揮率」。いくら良い選手がたくさんいても、その能力が発揮されなければ宝の持ち腐れとなってしまう。編成を苦慮し、選手をうまく組み合わせ、モチベーションを高く保つようにサポートを欠かさないことで、発揮率は高められる。

 鹿島というか、鈴木が得意としてきたのは発揮率を極限まで高めることだ。例え話とはいえ、80の戦力があれば70まで発揮させることができると豪語できるのは鈴木くらいだろう。発揮率は0.875。チームが持つポテンシャルを、ほとんどすべて出させているのだ。
 とはいえ、どんなに力を発揮しても絶対値が80ならば、発揮率が100%だとしても80を超えることはない。強力な布陣を敷いてきた名古屋のやり方が軌道に乗り始めたこともあり、追走することはできなかった。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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