“常勝”鹿島に突きつけられた課題=岐路に立つ79年組体制

田中滋

逆転を狙う場面で小笠原をベンチに下げる

オリベイラ監督の戦い方はチームの実情にそぐわなかった。来季は新しい戦い方を模索する必要がある 【写真:アフロ】

 しかし、名古屋の独走を許してしまった要因は強化部の方針だけではなく、さまざまな要素が絡み合った結果だ。オリベイラ監督の戦い方が、チームの実情にそぐわなくなってしまったことも、一つの要因として見逃せない。これまでは、威風堂々とした指揮官に率いられどんな相手を前にしても戦い方を変えず王道を歩んできたが、今季はそのやり方では勝てなかった。疲弊した主力選手たちのパフォーマンスは一貫して高まらず、元気な若手は気持ちをくすぶらせてしまったのである。

 オリベイラはメンバーを固定して戦う。そのため終始一貫して戦い方はぶれず、安定した成績を残すことができていた。夏場になると毎年のように失速する鹿島だが、昨季にあった5連敗後の復活劇の際も「戻る場所があった」と小笠原満男が話したように、やり方を変えずに戦うことが3連覇につながっていた。フィジカルコーチ出身の監督らしく、年間を通じてピークをどこにもってくるのか計算され尽くしたコンディショニングで、他チームの追随を許さず、11月、12月の終盤戦は無敗を誇ってきた。ところが今季は、夏場に落ちた運動量がいつまで経っても戻らず、試合をコントロールする王道のサッカーを志すも、そこからほど遠いサッカーしか見せることができなかったのである。

 終盤戦は、その移り変わりを顕著に表していたのかもしれない。リーグ戦で8年ぶりに勝利を譲った11月23日の磐田戦後、伊野波雅彦は沈痛な面持ちだった。
「見た人が一番分かるでしょ」
 動けない中盤はセカンドボールを支配され、試合をコントロールするどころではなかった。

 次の京都サンガF.C.戦では、目を疑う光景が待っていた。速攻から左サイドを攻め上がる小笠原。ペナルティーエリアに侵入し、左足で中央に折り返そうとしたその時、軸足の右足に力が入らず左足を振り抜くことができなかった。ボールは転々とエンドラインを割っていった。
 最終節のモンテディオ山形戦では、逆転を狙うための大切な時間帯に交代を命じられたのが、その小笠原だった。こうした大事な場面でキャプテンをベンチに下げる判断を、オリベイラ監督が下したのは初めての出来事だった。

新しいやり方を模索しなければ今季の二の舞も

「今年は良くない時期も確かにあった。チームも勝てなかったし」
 小笠原は自身の今季をそう振り返った。ただ、悔しさを糧にして天皇杯や来季に向かうわけでもないという。
「悔しい、悔しいと言って勝てるなら、次の試合にも悔しさをぶつけますけど、そうじゃない。それに、常に満足はないですね。勝ったとしても、喜びはあるけど満足はない」

 もしかしたら、その繰り返しが“常勝”を支えてきたのかもしれない。とはいえ、鹿島は来季から新たなサイクルに入る。小笠原とともにオリベイラ体制を支えてきた、エースFWのマルキーニョスが退団。惜しむ声も聞かれるが、マルキーニョスがリーグ戦に先発で出場できなかった試合は、昨季の3に対し今季は7と急増した。得点は11と二けたを超えたが、その得点パターンはごくごく限られたものだけになり、衰えは隠しようがなかった。

 また、名古屋との戦力差を最小限に押しとどめる必要性もある。当初は、小笠原や中田浩二といった79年組から来季に入団するプラチナ世代への緩やかな世代交代が予定されていたが、本山雅志がこの1年でほとんどピッチに立てないなど(15試合出場)、想定外の事態を迎えている。「小笠原ら、主力が動けるうちに」という狙いも、いつ絵空事になってしまうか分からない。ちょうどその間の世代となる清水エスパルスの本田拓也獲得へ動き、戦力の充実を図る理由も推し量れる。

 ただ、そうなれば監督の采配(さいはい)も変わらざるを得ないだろう。
 名古屋があれだけの戦力を集めた以上、ある程度の戦力を確保しなければ対抗できない。しかし、まだ正式な合意はないが、オリベイラ監督続投の方針に変わりはなく、メンバーを固定する従来のやり方では不満がたまることは避けられない。控え選手たちの不満を、自らの練習姿勢で抑えていた大岩剛も引退する。勝点70を目指した戦いになった時、もし従来のまま、シーズン半ばに失速するようなことがあれば、それは優勝戦線からの離脱を意味する可能性もある。新しいやり方を模索しなければ難しいだろう。
 来季、チーム創設20周年という記念すべき年を迎える鹿島。どんな姿で現れるのだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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