“守備の国”イタリアが下す長友の評価=シーズン序盤の活躍と今後の課題

宮崎隆司

メディアの平均採点は5.90 マイコン、キブーよりも高い

持ち味の運動量とスピードはセリエAでも十分通用する。長友は解説者やメディアから高い評価を得た 【Getty Images】

 DFとして初めて“守備の国”として知られるイタリアへ渡った長友佑都。その長友に対するイタリア国内の評価は、現時点(第7節終了時)においては、おおむね高い。むしろ、「これほどやれるとは」というのがチェゼーナを間近で見る報道陣、あるいは対戦したチームの番記者たち、そしてファンの間で共通する見解である。
 日本ではすでに誰もが知るところの、あの驚異的な運動量とスピードはセリエAでもかすむことはない。同リーグの全20チーム、40名以上のサイドバックの中で、これまでの働きぶりは間違いなく上位10傑に入るはずだ。

 かつてフィオレンティーナやベローナ(1984−85シーズンには奇跡のスクデット=リーグ優勝=獲得)で活躍したMFで、86年W杯・メキシコ大会のイタリア代表メンバーであり、引退後はフィオレンティーナのGM(ゼネラル・マネジャー)を経て、現在テレビ解説者を務めるアントニオ・ディ・ジェンナーロ氏は長友の印象をこう語っている。
「縦に猛然と駆け上がっていく彼の姿は実に壮快、かつ迫力に満ちている。それだけを見にスタジアムへ足を運ぶ価値がある。サッカーという競技の素晴らしさをあらためて感じさせてくれるプレーヤーだと思う。とにかく、後半ロスタイムでもあれだけ走れるスタミナは、文字取り驚異的だ」

 また、元インテルの名DF、イタリアサッカー史上屈指のサイドバックであるジュゼッペ・ベルゴミ氏も次のように語る。
「速さはもちろん、さらに特筆すべきはその集中力ではないか。初めての欧州、慣れない環境の中で、言葉の問題も抱えながら、あの小さな体で、それでもここまでそつのないプレーを見せるというのは単に技術や体力だけでなく、彼がたぐいまれな集中力を、そして強靭(きょうじん)な精神力を兼ね備えている証しだと思う。これからも試合をこなすごとに実力を確実に高めていくはず。非常に楽しみなDFだ」

 両氏の見解をメディアも肯定している。イタリア国内の2大スポーツ紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』と『コリエレ・デッロ・スポルト』による採点は、これまで7試合の平均で5.90。及第点とされる6.0に限りなく近い。ちなみに、『ガゼッタ』紙に限れば、その数字は5.93。対して、首位インテルの右サイドバック、マイコンは5.60、同じくインテルの左サイドバック、クリスティアン・キブーは5.64。このことからも、長友がいかに安定した働きを見せているかが証明されるだろう。

「イタリアで高い評価を得るには、背後にすきを作らないこと」

 だが、その一方で、やはり日本代表も含めた連戦の疲れが少なからず出てきたのか、あるいは徹底して研究されているからなのか、長友がここに来て、やや開幕当初のキレをなくしている印象もある。とりわけ顕著だったのは、ホームでの第4節・ナポリ戦だ。今季、第7節終了時でユベントスの16得点、パレルモの14得点に次ぐ13得点をたたき出している強力な攻撃陣(ハムシク、カバーニ、ラベッシ)が相手だったとはいえ、その試合ではなかば相手に思うようにやられた感が強い。結果、スコアは1−4に終わった。

 ナポリの右MFズニガとのマッチアップでも、ほぼ完敗に近い内容だった。劣勢でも果敢に攻め込もうとするところを待ち受けられ、ジャッケリーニ&長友のコンビがそろって前に上がろうとするタイミングを狙われると、そこでボールを奪われて何度もカウンターの起点とされていた。無論、それは何も長友だけの責任ではなく、左サイドで攻守にわたってコンビを組むジャッケリーニ、パローロ、さらにはほかのDF陣も含めて崩されたわけだが、やや強引なまでに前に上がろうとする長友の癖を突かれたとも言える結果だった。

 ベルゴミ氏は次のようにも述べている。
「80年代にはクラウディオ・ジェンティーレ(元ユベントスなど)、そしてあのパオロ・マルディーニ(元ミラン)、近年ではジャンルカ・ザンブロッタ(ミラン)。そして今日ではドメニコ・クリシート(ジェノア)。こうしたDFたちに共通するのは、もちろん彼らは攻撃的な実力も十分に兼ね備えているわけだが、やはり最も重要とされる資質は自らの背後にすきを作らないこと。裏を取られないための抜け目のなさ。その部分に優れずして、ここイタリアで高い評価を得ることはできない」

 とすれば、長友はやはり、今よりは多少でも守備への意識を高めるべきということなのか。冒頭で述べたように、また多くの識者が長友の鋭い縦への上がりを称賛するのは紛れもない事実だが、今はまだ、例えば第2節・ミラン戦(2−0でチェゼーナが勝利)でフィッカデンティ監督が再三にわたりポジショニングの修正を指示していた事実が示すように、あらためるべきポイントが少なくはないと見るべきだろう。
 ちょっと頑張りすぎ。言い換えれば、やや気負いすぎと言えるのかもしれない。

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著者プロフィール

1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』などに執筆。近著に『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(コスミック出版)

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