20歳の女王カナエワが優勝、「原点回帰」する新体操=イオンカップ

椎名桂子

北京五輪、2度の世界選手権を制した20歳の女王カナエワ 【榊原嘉徳】

 10月8〜10日、東京体育館で行われた新体操の世界クラブ選手権大会「イオンカップ」は、下馬評のとおり20歳の“絶対女王”エフゲニヤ・カナエワ(ガスプロム=ロシア)の優勝で幕を閉じた。2位はダリア・コンダコワ(ガスプロム=ロシア)、3位にメリチナ・スタニオウタ(ディナモ・ミンスク=ベラルーシ)。9月にモスクワで行われた世界選手権とまったく同じ顔ぶれのトップ3となり、この3人の強さが際立つ大会となった。
 一方で、会場で解説を務めたロンドン五輪新体操強化本部長の山崎浩子氏が再三口にしていた「バージョンアップした新体操」を知らしめる大会でもあったように思う。

身体能力重視の時代からの変化

 「芸術スポーツ」と言われた新体操だが、2000年ころから様子が変化していった。超人的な身体能力がもてはやされ、新体操の特徴であり、魅力だったはずの手具は添え物になり、音楽もBGMにすぎない。そんな時代が続き、一般の観客に分かりやすい「魅力」を失っていた。
 しかし、北京五輪後のルール改正により、流れが変わりはじめた。手具操作の多様性や独創性を重視し、音楽と一致した表現を評価する、新体操の原点回帰現象が起きてきたのだ。カナエワは、2008年の北京五輪で、わずか18歳にしてその新しい流れを象徴する女王となった。そして、その進化はまだ止まっていないことを、今回のイオンカップでも見せつけた。

 もちろん、新体操が「原点回帰」の流れにあるとは言っても、いったん進化した身体能力への評価が下がることはない。10年前には人を驚かせることのできた柔軟性やバランス力、回転力は今やジュニア選手でも「あって当たり前」になっている。世界のトップ選手たちは当然、身体能力の面でも、飛び抜けたレベルにある。しかし、その身体能力の高さに加えて、手具操作の面白さ、巧緻性を兼ね備えているのが今のトップ選手たちだ。このことは、すでに昨年の世界選手権でも顕著になっていた。

芸術性での新境地を開いた女王・カナエワ

優勝のカナエワ。決勝のフープでは、芸術点で満点を出した 【榊原嘉徳】

 それが今年になり、さらに「表現力」、「芸術性」が高まった。これが山崎氏のいう「バージョンアップした新体操」なのだ。現在、世界のトップ3は、カナエワが20歳でほかは10代。深みのある表現を期待するにはまだ若過ぎると言われそうな年齢なのだが、カナエワがフープやリボン、ボールで見せた演技は、「芸術性」の面でも文句のつけようのないものだった。決勝のフープでは、なんと芸術点で満点までたたき出してしまったのだから。

 記者会見でのカナエワのコメントは、若さゆえかそっけない。あれほどの芸術性を感じさせる演技を見せていながら、「何を表現しているのか?」と問われても、「音楽と一体になるように心掛けている」。カナエワの答えはそれだけだ。

 今年、カナエワは、フープはバレエ音楽「春の祭典」、リボンではタンゴを使っている。まだかわいらしさの抜けなかった昨年に比べると、どちらもドラマチックな曲だ。音楽を表現することでそこにストーリーが浮かんでくるような曲にめぐり合ったことが、カナエワの演技の芸術性を一段高めた、と言えるのではないだろうか。

 身体能力だけでなく、手具操作の面白さだけでなく、芸術性も兼ね備えた若きチャンピオン・カナエワが新体操に君臨し続ける限り、新体操はより魅力的な方向に進化し続けていくだろう。多くの若い選手たちが、カナエワのような新体操を目指して努力を続けていけば、新体操は間違いなく魅力的になっていく。現に日本にも、身体能力と手具操作能力を兼ね備え、表現力が高まったことで、今年一気に評価を高めた山口留奈(イオン)がいる。山口は、イオンカップ決勝では4種目をノーミスでまとめ、全種目で26点台をマークし、日本人選手にとって高い壁だった26点の壁を突破する力がついていることを世界の審判に認めさせた。

 「ロンドン五輪に向けてのこれからの2年間の抱負は?」と、試合後の記者会見でたずねられたカナエワは、「スポーツには限界がないと思うので、私はその先に挑戦し続けたい」と答えた。08年北京五輪、09年、10年世界選手権と勝ち続けている“絶対女王”カナエワの口から出たその言葉は、彼女の強さを物語る。

 これからの新体操は、面白くなる。魅力を増してくる。世界でも、日本でも。
 そう、深く確信することのできた2010年イオンカップだった。

<了>
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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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