鹿島の哲学に沿ったジウトンの起用=短所よりも長所を生かす組織

田中滋

強烈な個性を組み合わせる鹿島のチーム哲学

磐田戦でヘディングゴールを決めるジウトン(右)。オリヴェイラ監督はその攻撃力を評価している 【写真は共同】

「人は石垣、人は城」と、記したのは戦国時代の名将・武田信玄とされている。勝敗を決するのは堅固な城があるかどうかではなく、個人の能力や特徴をつかみ、彼らの才能を十分に発揮できるような集団を作ることが大事である、というのがおおむねの意味だろう。

 よく知られた言葉ではあるが、あらためてその意味をかみしめてみると、今度は「言うは易(やす)く行うは難し」という言葉が浮かんできてしまう。なぜならば、強い組織をつくろうと思い立ったとき、個人の能力を生かすことが最も重要であることは誰でも分かる事実だ。しかしながら、それを実際に行う段になると、わたしたち日本人はどうしてもその人が持つ長所よりも短所に目がいってしまう。その結果として、短所が目立たないことに主眼を置いたちんまりとした組織が出来上がってしまうのだ。

 Jリーグの世界でも、鹿島のジウトンをめぐる言説はその好例だろう。つたない守備を不安視する意見はいまだに強く、監督の起用法を疑問視する声も消えていない。しかし、監督のオズワルド・オリヴェイラの考え方は終始一貫しており、それはJリーグで最も多くのタイトルを獲得してきた鹿島アントラーズのチーム哲学ともぶれるところがない。つまり、「人は石垣」だ。もともと鹿島というチームは、ジウトンのような短所を持っていようとも、強烈な個性を組み合わせることで成り立っている組織なのである。

オリヴェイラがジウトンを評価する理由

 事の発端は、ワールドカップを挟んでディフェンスのレギュラー2人がチームを離れたことだった。日本代表の内田篤人がドイツのシャルケへ、そして韓国代表のイ・ジョンスがカタールのアルサッドへ移籍したのである。これにより、鹿島の最終ラインは大きな変更を余儀なくされた。何しろ抜けたのは日本と韓国の代表選手であり、それを埋め合わせるのはそう簡単ではない。それなりの選手を連れてくる必要性がチーム外では叫ばれていたが、鹿島のフロントはまったく動かなかった。
 イ・ジョンスの移籍は予想外だったが、内田の移籍はもともと想定内のものだったため、それに対する備えはシーズン初めですでに施されていたからだ。つまり、ジウトンである。オリヴェイラは左の新井場徹を内田の抜けた右サイドへ、そして左にジウトンを起用した。

 3連覇を成し遂げた監督であるオリヴェイラたっての希望で鹿島入りしたジウトンだが、周囲の評価はいたって低いものだった。「守備ができない」「上がっても戻ってこない」「戦術を理解していない」など、ジウトンを評価する声を探す方が難しいくらいなほど。しかし、オリヴェイラは早くからジウトンを評価していた。前所属の新潟でさえ完全にはレギュラーポジションを獲得できていないのに、オリヴェイラが2009年のオールスターでJリーグ選抜として選出した時には驚きの声を持って迎えられた。

 監督がジウトンに対して、なぜそこまで高い評価を与えるのかといえば、前への推進力が強いからだろう。リーグ中断期間に行われた福島合宿で、内田が抜けた後をどうやって埋めるのか聞かれたオリヴェイラは「ジウトンだ」と即答している。さらに「伸びしろの多い選手だし、使っていけばどんどん伸びていくはずだ」と太鼓判を押していたのだ。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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