投手陣に大記録続出、MLBの前半戦を振り返る

出村義和

ヒメネスのノーヒットノーランを皮切りに、大記録が続出した 【Getty Images】

「何が起こるかわからない」というのは、終盤戦からポストシーズンにかけての常套(じょうとう)句。だが、今年は前半戦から想像を超えるような出来事が次々に起こっている。もちろん、優勝争いも混沌(こんとん)としている。スリリングなシーズン。そのファーストハーフを振り返ってみよう――。

完全試合2度は史上初

 まず、飛び込んできたビッグニュースは4月17日(現地時間)、ウバルト・ヒメネスのノーヒッター。93年に誕生したロッキーズ球団史上初の快挙がまるで引き金になったかのように大記録ラッシュが始まる。5月9日には通算で17勝しかマークしていない26歳の左腕ダラス・ブレイデン(アスレチックス)がレイズを相手に史上19人目の完全試合を達成。わずか3週間足らずの29日には、現役メジャー最強右腕といわれるロイ・ハラデー(フィリーズ)が史上20人目の完全試合を達成したのだ。
 同一シーズンで完全試合が2度達成されたのは140年を超えるメジャー史上でも初めてのことだ。そして、6月25日にはエドウィン・ジャクソン(ダイヤモンドバックス)が8四球と1死球を与える大荒れの投球ながらノーヒッターを達成。その球数は149球に達し、「私が責任を取る」と続投を認めたA.J.ヒンチ監督はその責任を問われることはなかったが、1週間後には成績不振を理由に解任された。

 大記録ラッシュの極めつけストーリーは、6月2日のデトロイトで発生した世紀の大誤審だろう。9回2死、インディアンス相手に大記録目前にしたタイガースのアルマンド・ガララーガは最後の打者になるはずのジェイソン・ドナルドを一、二塁間にゆるいゴロを打たせる。一塁手カブレラが捕球。ベースカバーに入ったガララーガのグラブに送球が収まり、今シーズン3回目の大記録達成と思われた瞬間、一塁塁審の両手は水平に広がる。
 タイミングは完全にアウト。しかし猛烈な抗議にも判定は覆ることなく、ガララーガは次打者を打ち取り、ゲームは終了。その後、リプレーで誤審であることを認めたジム・ジョイス審判はガララーガに謝罪、翌日試合前のメンバー交換では両者が握手を交わし、世紀の大誤審は劇的な展開で感動ストーリーに生まれ変わった。

パドレスは躍進、前評判の高かったマリナーズは…

 ほかにも投手にまつわる話題は多い。ドラフト史上最高の投手といわれた昨年の全米トップ指名、スティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)が14奪三振のセンセーショナルなデビューは全米を興奮させた。21歳の超大物がベールを脱げば、47歳の最年長投手も踏ん張る。5月7日、対ブレーブス戦に先発したジェイミー・モイヤーは得意のチェンジアップで手玉に取り、2安打無四球で完封。87年にフィル・ニークロ(インディアンス)が達成した46歳188日で記録した最年長完封記録を更新したのである。

 サプライズ続出のシーズン。レース展開ではパドレスの大躍進に誰もが驚いた。シーズン前、ほとんどのアメリカ・メディアが最下位を予想した。オーナーの離婚問題で資金がなく、補強らしい補強をできなかったことが理由だった。ところが、フタを開けてみると、早くも10勝をマークしたマット・ラトスら新鋭投手が一斉に大ブレーク、首位での前半折り返しをほぼ確実なものにしている。

 一方、期待を裏切るサプライズはマリナーズだった。クリフ・リーやショーン・フィギンスら投打の大型補強で「常勝エンゼルスを倒して優勝」との呼び声も高かった。しかし、スプリングトレーニングでリーが故障、1カ月出遅れたうえにフィギンスが深刻なスランプ。しかも、不振のケン・グリフィーに試合中の「居眠り疑惑」が発覚(グリフィー本人は疑惑を否定)。そして、突然の引退。問題児ミルトン・ブラッドリーの「試合途中帰宅事件」などもあって、チームはバラバラ。おととしまでの無秩序チームに戻ってしまっては、優勝を争うどころではなくなった。

 オールスター明けの15日からは後半戦が始まる。「何が起こるかわからない」本番を迎え、サプライズなシーズンはますます面白くなるに違いない。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

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