ベールを脱いだ大型新人、ストラスバーグがメジャーデビュー

出村義和

歴史と記憶に残るメジャーデビュー

21歳の豪腕、ナショナルズのストラスバーグがセンセーショナルなデビューを飾った 【Getty Images Sport】

 スティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)がみせた歴史と人々の記憶に刻み込むようなセンセーショナルなデビュー。そのインパクトは広がるばかりだ。本拠地ナショナルズ・パークで背番号37のグッズが飛ぶように売れるのは当然としても、次回登板予定(現地13日)が発表されると、対戦相手インディアンスのホーム、プログレッシブ・フィールドではたちまち3000枚のチケットが売れ、当日券の大量販売も見込んでいるという。今シーズンのインディアンスは最下位に低迷(現地10日現在)、メジャー最低の1試合平均1万5000人程度しか観客が入らない不人気にもかかわらず、だ。さらに、注目度の高いレッドソックス対フィリーズ戦を中継する予定だったテレビ局も急きょインディアンス対ナショナルズにカード変更した。おそらく、この21歳の豪腕投手が投げるたびに、球界内外にさまざまな現象が生まれることだろう。それほど、すごいデビューだった――。

チェンジアップで93マイル

 現地8日、普段は空席の方が多い首都ワシントンDCにあるナショナルズ・パークは、満員札止めの4万1000人余の大観衆で膨れ上がった。4月の開幕以来のことだ。メディアの取材申請はポストシーズン並みの200件を超えた。2005年、モントリオールから本拠地を移転してから、そんなことは初めてのことだった。
 
 ドラフト史上最高の投手といわれ、全米1位指名されたうわさの超大物。4年総額1510万ドル(約13億円8千万円)の超破格契約。そして、11回先発したマイナーリーグでの驚異的な成績(55回3分の1を投げ、65奪三振、防御率1.30)。そんな投手がいよいよベールを脱ぐのだから、地元ばかりでなく、全米が注目するのは当然だった。

「初球以外は覚えていない」と、ストラスバーグは試合後に語っているが、『Jsports』で緊急生中継された映像を見る限り、落ち着いたプレートさばきからは、過度な緊張が伝わることはなかった。スポーツ専門局『ESPN』によると、ストラスバーグの投じた94球のうち、34球が98マイル(約158キロ)を超えていた。信じ難いことだが、チェンジアップでさえ93マイル(約150キロ)を計時していたという。
 これではメジャー最低のチーム打率を争う、貧打パイレーツが打てるわけはない。4回、デルウィン・ヤングに2ランを打たれはしたが、ストラスバーグは剛速球、パワーカーブ、チェンジアップ、スライダーとすべての球種で三振の山を築いていく。スタンドが大熱狂する中、最後の7連続を含む14個の三振を奪い、しかも無四球で初登板を勝利で飾ったのだ。

伝説の“火の玉投手”も第2戦へ

「彼のような投手を見たことがない」と、驚嘆したのは01年のワールドシリーズでランディ・ジョンソンとMVPを分け合ったカート・シリングだ。
 確かに、その通りかもしれない。この30年、私も大物といわれる新人投手をみてきた。その中でも突出していたと思えるのは新人王とサイ・ヤング賞をダブル受賞した81年のフェルナンド・バレンズエラ(ドジャース)、新人の奪三振記録を作った84年のドワイト・グッデン(メッツ)、初先発から5戦目で20奪三振記録をマークした98年のケリー・ウッド(カブス)の3人だが、ストラスバーグは勝るとも劣らぬ投球をみせ、限りない可能性を感じさせた。
「自分の目で確かめたい。だから13日は球場にいくつもりだ」と、91歳のボブ・フェラーは言う。17歳でデビュー、初めての先発で15三振を奪い、火の玉投手といわれたインディアンスの伝説の大投手だ。

「私の知る中で最高の投手はスピードとコントロールを兼ね備えたウォルター・ジョンソンだが、彼と比べて実際どうなのか見てみたいんだ」

 ちなみに、そのジョンソンとは歴代2位の通算417勝をマーク、人間機関車といわれた往年のワシントン・セネターズの怪物投手のことだ。
 2度目の登板はどんな結果になるのか。そして火の玉投手はどのような感想を語るのか。ストラスバーグの右腕はますます注目される。
 
<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

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