回り道を経てイチローが達成した大記録=ICHIRO Decade 2004
Decade 2004
258本目のヒットを放ち、チームメートに祝福されるイチロー 【Getty Images】
ジョージ・シスラーを抜く、258本目のヒットを放つと、夜空をバックに花火が舞い、同時に、ダッグアウトにいた監督、コーチ、選手全員が飛び出して、一塁ベース上のイチローを祝福。予期していなかったイチローは、試合後に振り返った。
「わざわざダッグアウトから、選手や監督が出てきてくれるなんてことは、まったく考えていなかった(笑)」
2004年10月1日のことだった。
イチローの04年はあらためて触れるまでもなく、262安打というメジャーリーグの年間最多安打記録を樹立した年として、多くの人の記憶に刻まれている。
しかし、4月は打率2割5分5厘に低迷し、安打数は26。ささやかれたのはむしろ「スランプ」という言葉で、チームも低空飛行を続けると、イチローの顔も曇りがちだった。
このときただ、あえてイチローは“回り道”を選択していた。
スタイルを変えて狂ったリズム
モリター打撃コーチは当時、こう語っている。
「イチローの積極性を奪うつもりはないが、『早いカウントは、くさい球』がイチローの攻めのセオリーになっている。つまり、投手の有利なカウントで投げてくる球――それは難しい球であることが多いのだが、それを打つ必要はないんじゃないか、と話し合ったんだ。カウントを悪くすれば、相手はストライクゾーンにボールを投げなければいけない。ベース上の勝負ならば、イチローに分があるからね」
開幕戦、イチローは全打席で初球を見送った。
イチローとしても、納得した上で受け入れたこと。
「ある程度たくさんのピッチャーを見させてもらって、リスクを冒して1球目から攻撃しなくてもいいと考えられるピッチャーもたくさんいるわけですよ」
4月半ば、初球に対する意識の変化を問うと、イチローはさらにこう言葉を継いだ。
「つまり、1ストライクと追い込まれてからでも、十分対応できるピッチャーっていうのはいますから。その人たちに対して、1球目から……もちろんチャンスもあるんだけど、そこでリスクを冒す必要性というのはだんだん少なくなってきたんですよ、僕の中では」
しかしながら、そうした中で少しずつイチローのリズムが狂っていたのかもしれない。4月が終わると、メルビン監督、モリター打撃コーチは自由に打つことを、逆に指示した。