W杯今季最終戦で見えた日本の課題=スキージャンプ

小林幸帆

ワールドカップ個人最終戦で優勝したスイスのシモン・アマン(中)、2位のアダム・マリシュ(ポーランド 左)、3位のアンドレアス・コフラー(オーストリア) 【Getty Images】

 ノルディックスキー、ジャンプのワールドカップ(W杯)最終戦、個人第24戦は14日、ノルウェーのオスロで行われた。日本勢は、葛西紀明(土屋ホーム)の19位を最高に、伊東大貴(雪印)が23位、湯本史寿(東京美装)が33位、竹内択(北野建設)が48位となり、栃本翔平と岡部孝信(ともに雪印)は、予選を通過できなかった。
 優勝は、最終戦を待たずに個人総合優勝を決めたバンクーバー五輪2冠のシモン・アマン(スイス)で、W杯5連勝を果たし、今季通算9勝目を飾った。

日本勢として健闘も、世界の壁は厚く

 今季の日本勢は、シーズンを通して確実に2本目に進めるのが葛西と伊東の両選手のみ。シーズン途中から調子を落とす選手も多くなったが、最終戦はそうした日本の状況を映し出す結果となった。
 W杯個人総合成績を振り返ると、伊東16位、葛西17位、栃本32位、湯本38位、竹内49位、岡部82位。日本選手の中で最上位につけた伊東は、練習不足や疲労でシーズン中盤から調子を落としたものの、クリスマス前にはトップ選手が勢ぞろいしたW杯で表彰台にも上がり、最近5シーズンの中ではベストといえるシーズンとなった。
「ここ何年かの間では1番良い安定したシーズンだったが、それは例年の自分と比較した結果であって、トップとの差は例年以上つけられた。今のレベルでは戦えない」

 今季も日本の大黒柱となった葛西は、バンクーバー五輪の調整のために、五輪前のW杯7戦に欠場。W杯の総合順位ではこの欠場が響き、昨季の総合15位を上回れなかった。
「W杯札幌大会あたりから(調子が)良くて、それを五輪、その後のW杯と続けられたが、依然、世界と壁があるので悔しい。もっと技術面を磨かないと。アマンのいいところも盗みたい。他の選手のレベルが高いので、悔しいという気持ちでモチベーションを保っている」
 今シーズンも埋めることのできなかった世界トップ選手との差。特に、世界のトップとして君臨する「アマン」は、日本勢の大きな壁となっている。
 アマンは、見事なまでに五輪に照準を合わせノーマルヒル、ラージヒルの2冠を獲得すると、五輪直前のW杯から出場した7戦を勝ち続けるという離れ業で、スイス初となるジャンプ総合優勝という悲願を達成した。アマンと2年連続王者を争ったオーストリアのグレゴア・シュリーレンツァウアーも「彼は今、キャリア最高の状態で飛んでいる」と言わしめたほどの絶対王者。日本勢は今後、この高い壁をどうクリアすれば良いのだろうか。

底辺拡大が継続的な力に

 世界に目をむけると、強国では底辺拡大に力を入れている。
 自国メディアをして「史上最強チーム」と称されるオーストリアでは、インスブルック近郊にえりすぐりのエリートを集めたスキー学校「シーギムナジウム・シュタームス」が存在し、バンクーバー五輪の団体で金メダルをもたらした選手の4人中3人が同校の出身者だ。この学校は、オーストリアの国技アルペンの他、ジャンプ、コンバインド、クロカン、バイアスロン、スノーボードなどのコース別に分かれており、多くの生徒が寮生活を送っているという。
 また、オーストリアは2010年1月にドイツで行われた世界ジュニア選手権の団体で金メダルを獲得したが、選手の4人のうち3人が同校の在校生と継続的に大成功を収めている。こうした少数精鋭集団が形成される背景にはジャンプが人気競技となっても続けられている底辺拡大の努力がある。
 ジャンプ選手として90年代に大活躍、引退後も変わらず人気の高いアンドレアス・ゴルトベルガー氏を看板に据え、3年前からタレント発掘活動も行われている。6〜10歳の子どもを対象に1日ジャンプ体験を通じて競技に親しんでもらうことを意図したもので、国内5カ所で開催。今冬は合計600人の子どもが参加し、多い年で大会参加者のうち約80人がその後スキークラブに登録するという。現在オーストリアに25あるクラブの中には定員オーバーで入会不可能なところもあるというから驚きだ。

 ドイツでは、2014年に世界トップに返り咲くことを目標に、2年前に前述のスキー学校で10年近くコーチを務めていたウェルナー・シュスター氏をヘッドコーチとして迎え、彼の持つノウハウを取り入れ、再建を目指している。その強化は、五輪の団体で銀メダルを獲得したように少しずつ実を結び始めており、同コーチによる2014年までの長期政権が決定。今後は全国各拠点における強化システムのさらなる一元化を目指す。さらに、育成部門への補助金アップや、スキーの盛んな4〜5の州において地元の学校と提携し、才能ある子どもをスキーに取り込むことも検討されているという。

 1センチの飛距離アップを目指し、あらゆる面で各国が知恵を振り絞り、しのぎを削っている。3月19日から始まるフライング世界選手権(スロベニア)をもって今季のスケジュールは終了するが、世界では、すでに来季に向けて別の競争が始まっているようだ。

<了>
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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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