元日恒例のジャンプ大会、葛西が日本勢最高位=スキー・ジャンプ週間第2戦

小林幸帆

ジャンプ週間第2戦を兼ねたW杯ジャンプ個人第8戦で13位に入った葛西紀明 【写真は共同】

 ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)ジャンプは1日、ジャンプ週間第2戦を兼ねた個人第8戦(HS140メートル、K点125メートル)がドイツのガルミッシュ・パルテンキルヒェンで行われた。日本からは予選通過の葛西紀明(土屋ホーム)と竹内拓(北野建設)、予選免除の伊東大貴(雪印)の3選手が参戦。最高位は葛西の13位で、伊東は24位、竹内は1本目のノックアウト(KO)ラウンドに破れ2本目に進めず42位となった。
 優勝はグレゴア・シュリーレンツァウアーが今季3勝目を挙げ、またしてもオーストリアの手に。2位は昨季ジャンプ週間覇者のウォルフガング・ロイツル(オーストリア)、3位には2本目でジャンプ台記録を2.5メートル上回る143.5メートルの大ジャンプを飛んだシモン・アマン(スイス)が入った。

竹内は1本目で敗退、伊東は体調不良で24位

 日本勢で最初に飛んだ竹内。対戦したノルウェーのロアール・ヨケルソイは勝てない相手ではなかったが、飛距離で2メートル差をつけられ1本目で敗退となった。
「距離が出ない。最低限のことはやっているけれど全然足りない。足りないところが分かれば違ってくると思う。考えすぎて迷いに入っている」と、繊細な競技であるジャンプならではの悩みを口にした。ジャンプ週間中は練習ができず、調子を戻すことの難しさも語ったが、五輪の選考を兼ねていることの心理的な影響については「五輪の当落線上にいるので、影響がないとは言えないけれど、試合になったらそのことは考えていないのでジャンプには関係ない」と話した。

 また風邪が治りきっておらず、この日は頭痛を抱えての出場となった伊東。前日の予選後「この(ジャンプ)台は苦手。台が新しくなってから初めてK点を超えた」と苦手意識をのぞかせていたが、本戦の2本目で1本目の21位から順位を3つ後退させるジャンプとなると、「体調が悪いのが悔しい」と咳き込みながら話した。3位に入るなど絶好調だった10日前のエンゲルベルク3連戦(スイス)に話を向けられると、「自分も良かったけど、他の選手がかみ合ってなかったこともあるのでは」と、体調不良で心身ともに疲れ切ってしまったのか、言葉に力がなかった。予選の後、伊東は竹内と同じように練習不足に言及していたが、本戦後には「体調、それから疲れがある。ジャンプ週間が終わって日本に帰ったら斉藤(浩哉/雪印)監督の下でしっかり調整したい」と、満足に調整できる環境の必要性を話している。
 この日の結果を受け、伊東はW杯総合11位となったため、次戦は予選からのスタートとなる。

ドイツで人気者のベテラン葛西

 そして葛西は1本目で127メートルの20位と、やや出遅れたが、2本目で133メートルを飛びトップにつけると、その後5選手が飛ぶ間リーダーズボックス(暫定1位選手のお立ち台)をキープし、最終的には13位まで順位を上げた。
「(初戦の)オーベルストドルフできっかけをつかんだ感じがあり、だいぶ良くなってきている。1本目、2本目とも良かったけど1本目は追い風があった。まだ助走に迷いがある。それがなくなればあと4〜5メートルくらいは距離が出ると思う」と、調子が上向くなかで明確な修正点も見つけていた。
 その葛西には菅野範弘チーフコーチも「インスブルックは去年も6位に入っているしいけると思う。優勝は難しいけど(笑)、トップ5は圏内」と期待を寄せた。

 葛西はドイツの大会で好成績を残してきていることもあって、ドイツでは人気者。開幕戦のオーベルストドルフで大声援が送られると「微妙ですね。応援してくれているのか、それとも年いってるから『まだやってんのかよ』とバカにされてるともとれるし」と苦笑だったが、ガルミッシュ・パルテンキルヒェンでもその人気は健在。2本目のスタート時には「ジャンプ週間に参戦すること100年のカザーイ」と会場アナウンスが入った。ドイツのギャグは背筋も凍りつく寒々しいものしかないが、スポーツイベントでのギャグは例外的に秀逸で、このセンスあるギャグに「100年ではないですけどね。37歳のカザーイにスタンディング・オベーションを!」と後が続くと、立見席はもちろん、座席スタンドの観客も立ち上がり、大きな拍手が送られた。スタジアムが沸いたこのアクションに、葛西は「ちょっと照れますね」。

総合優勝争いが白熱するジャンプ週間

 元日恒例のニューイヤー・ジャンプは、ドイツでは注目度が高く、普段ジャンプを見ない人でもこの日だけはテレビのチャンネルをジャンプに合わせるという一大イベントとなっている。今年はシーズン開幕戦で18歳のパスカル・ボドマーが2位と、ドイツに待望のニューフェースが登場したことでジャンプ週間のチケット売り上げに火がついたと言われており、この日は2万5千人もの観客を集めた。
 大観衆を前に、1本目ではKO最終2組がアマンvs.ロイツル、開幕戦優勝のアンドレアス・コフラー(オーストリア)vs.予選トップ通過のトーマス・モルゲンシュテルン(オーストリア)と優勝候補同士が対決、見るものにとってはたまらない勝負になった。
 その1本目でトップに立ったのは、シュリーレンツァウアー。開幕戦では胃腸をやられ体調不良だったこともあり9位と振るわなかったが、この日は本領を発揮した。そしてファイナルラウンドでは、1本目5位のアマンがジャンプ台記録を塗り替える大ジャンプで観客の度肝を抜いた。1本目のガチンコ2番勝負にアマンのメガ級ジャンプと、ここまでだけでもおつりが来るほど見ごたえのある試合となったが、アマンの後に残る4選手を含めた優勝争いも白熱し、最後はシュリーレンツァウアーとロイツルのオーストリア勢がワン・ツー・フィニッシュを決めた。
 オーストリアが2戦目もトップ10に5選手と、とどまるところを知らない強さを見せつけるなか、アンダース・ヤコブセンの5位を筆頭にベスト10に3選手を送り込んだノルウェー勢が健闘した。

 シュリーレンツァウアー、ロイツル、アマンがジャンプ週間初の表彰台となったことで、ジャンプ週間総合優勝争いも役者が出そろった。開幕戦優勝のコフラーの2戦目は4位止まりも、ジャンプ週間のリーダーに与えられるビブ(ゼッケン)は守った。しかし、このリーダーズ・ビブは相当重いようで、コフラーは予選とトライアルラウンドで最長距離を出すも、本番ではそこまで距離を伸ばせず、試合後「少しナーバスになってミスをしてしまった」と振り返った。

快進撃を続けるオーストリアの遠征バス 【小林幸帆】

 なお、五輪シーズンを迎えチーム力が格段にアップしているオーストリアは、専用の遠征バスを所有しており、ガルミッシュ・パルテンキルヒェンではジャンプ台の最寄り駅で降りると、真っ先に彼らの超豪華バスが目に入る。トップジャンパー5人衆にポイントナー・ヘッドコーチを入れた6人が描かれ、嫌でも目立つこのバスの前は昨年も記念撮影ラッシュだったが、それは今年も同じ。ドイツの国旗をまとったファンがバスの前で嬉々としてポーズを取っていたが、バスのゴージャスぶりとオーストリアの強さに、応援する国に関係なくジャンプ好きは素通りできないのだろう。

 折り返し点を迎えたジャンプ週間。次は彼らの地元オーストリアへと舞台を移し、第3戦(3日・インスブルック)、最終戦(6日・ビショフスホーフェン)を行う。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント