葛西13位、伊東は14位=スキージャンプ「ジャンプ週間」開幕

小林幸帆

「ジャンプ週間」に挑む日本勢

葛西紀明はワールドカップジャンプと伝統の「ジャンプ週間」開幕戦を兼ねた個人第7戦で、115.5メートルと123メートルの221.3点で13位に入った 【Getty Images Sport】

 ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)ジャンプは29日、「ジャンプ週間」開幕戦を兼ねた個人第7戦(HS137メートル、K点120メートル)がドイツ・オーベルストドルフで行われた。雨が降りしきり、条件も目まぐるしく変わる中、1本目が途中で再スタートになるなど難しい試合となった。
 日本からは予選を通過した葛西紀明(土屋ホーム)、栃本翔平(雪印)、竹内拓(北野建設)、予選免除の伊東大貴(雪印)の4選手が参戦。13位の葛西を最高位に、14位に伊東、栃本、竹内の両選手は2本目に進めず、それぞれ48位、34位に終わった。
 優勝はオーストリアのアンドレアス・コフラーで、2位は今季から復帰のフィンランドのヤンネ・アホネン、3位はオーストリアのトーマス・モルゲンシュテルンとなった。

 通常のW杯とは異なり、「ジャンプ週間」は、1本目を予選通過順位によるノックアウト方式で(予選1位vs.50位、2位vs.49位……)、2本目は1本目の勝者および敗者の成績上位5選手(ラッキールーザー)による30選手で争う。予選の結果、日本勢の組み合わせはスタート順に以下のようになった。

ヒルデ(ノルウェー/29)vs.葛西(22)
栃本(20)vs.ヤコブセン(ノルウェー/18)
竹内(45)vs.ボドマー(ドイツ/7)
メスナー(スロベニア/34)vs.伊東(9)
(カッコ内の数字は前戦終了時のW杯総合順位)

 2本目に進めなかった両選手は、ともにアンラッキーな1本目となった。栃本は着地後に左足スキーの金具が外れて転倒というアクシデントに見舞われる。悪条件もあり104.5メートルと飛距離も伸びなかったが、それ以上に、転倒ライン手前で転んだことが飛型点で大きな減点となり48位となった。
 竹内は、地元ドイツに数年ぶりに登場したニューホープ、18歳ボドマーと対戦。この日もボドマーには、ドイツのジャンプ・ブームの立役者シュミットと並び、とりわけ大きな応援が送られるなど、厄介な相手となった。
 竹内は強い雨と追い風の中で111.5メートルと飛距離を出したものの、ボドマーがそれを上回る118メートルを飛び、「ちょっと飛ばれちゃったかな」(竹内)と、地元のヒーローを倒せず。だが、「試技でジャンプを変えて良かったので、それを1本目でも続けてみた。他の選手と比べてみても、ジャンプはそんなに悪くなかった」と振り返ったように、この段階ではラッキールーザーのトップで、記録的にも5人に入ることは十分可能に思えた。
 ところが、このしばらく後に雨が小降りになるなど条件が良くなったことで、後続の選手が飛距離を伸ばしてきたため、結局は5人に残れず。ツキにも見放されたのが残念だが、菅野コーチは「(条件が良ければ)もっといけたはず」としつつ、「タラ・レバはないので仕方ない。それを乗り越えなきゃ強くなれない」と振り返った。

 また、前回のW杯エンゲルベルク3連戦では絶好調、最終日には3位に入った伊東は、風邪を押しての出場となり14位どまりとなった。伊東について、菅野コーチは「上半身が上がる悪い癖が出てしまったが、体調も直せば、すぐ元に戻る」と、気に留めることはなかった。

葛西の健闘

ジャンプ個人第7戦 13位になった葛西紀明の1回目=オーベルストドルフ 【共同】

 日本でただ一人笑顔はじけたのが葛西だ。
 前日の予選では「ジャンプがかみ合ってない。(助走)スピードが出ない」と首をかしげていた。対戦するヒルデは、最近2シーズンはパッとしないもののノルウェーの若手実力選手。この相手を前に葛西は「調子が悪かったから負けるなと、珍しくマイナス思考だった」という。試合前の試技でも負けが1本目で本来のジャンプを取り戻したことで、難なく1本目を通過した。
 しかし、1本目も「再スタートになる前の1本目がいい感じだったが、風が良かったくらいにしか考えなかった。ヒルデに大差で勝って『あれ?』と思った。(勝って)すごい喜んだのに飛び直しになったので、“うわーっ”ってなった。もう1本やったら負けるだろうと思いましたよ」と、すぐにはジャンプが良くなった実感をつかめずにいた。17番目でスタートした2本目では123メートルで暫定首位に立つと、最終的には1本目14位から1順位を上げて13位フィニッシュ。
「助走のポジションを直して、段々かみ合ってきた。スピードも出るようになり、それがいいジャンプにつながっている。何かつかめたのではないかと思う。難しい試合の中で13位は良かったと思う」と、予選とは打って変わって明るい表情だった。

強過ぎるオーストリア

 今回で58回目を迎える「ジャンプ週間」は、ドイツなどウインタースポーツの盛んなヨーロッパでは、非常に関心が高い。総合優勝のタイトルの価値は想像以上に大きく、その扱いは世界選手権優勝に匹敵するといっても過言ではない。
 誰もが欲しい総合優勝の座をめぐる争いはスイスのシモン・アマンとオーストリアのグレゴア・シュリーレンツァウアーが大本命と目されていたが、初戦を制したのはオーストリアのコフラーだった。今季は、ただ一人W杯全戦でトップ10に入っており、この優勝で総合順位3位に躍り出た。
 シュリーレンツァウアーが9位と予想外の順位に終わったが、オーストリアは上位6位までに4人、ベスト10に6選手と圧倒的な強さ見せつけた。
 シュリーレンツァウアー、モルゲンシュテルン、コフラー、ロイツルと、個人戦で優勝する力のある選手をすでに4人揃えているオーストリア、4人リレーで行われる団体戦で彼らを止めるチームは果たして存在するのか。

 そして、歴代最多となる5回の「ジャンプ週間」の総合優勝を手にしているアホネン。もともとの人気も手伝って、1年ぶり復帰の今季はどこに行っても開催国選手なみの大声援を受けているが、この日は大声援だけでなく向かい風も受けて復帰後初の表彰台に上がると、会場の盛り上がりに大きな一役を買った。
 「ジャンプ週間」といえばアホネンというくらい、この短期決戦にめっぽう強いアホネン、各国強豪選手の中にもアホネンを優勝候補に挙げる声は多い。

 初戦だけでは総合優勝の行方は見えないジャンプ週間、次戦は元旦にドイツのガルミッシュ・パルテンキルヒェンで行われる。
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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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