修造、ベッカーらを育てた名伯楽の指導法=テニス
現在の愛弟子であるマリン・チリッチ(クロアチア)をはじめ、数多くのトップ選手を育てた名伯楽が、日本のジュニア世代に伝えたいメッセージとは?
(取材・構成/杉浦多夢)
勝った負けたではない そこから何を得るかだ
いえ、基本的には何も変わりません。一人一人に言うことは、選手の個性に合わせて変わってきます。ただ、ここで大事なことは、選手ができること、キャパシティーをこちらが理解した上でアドバイスを送ることです。あとは同じようなドリルでも要求する難しさ、ハードルの高さが違うだけで、根本的なものはトップ選手であってもジュニアであっても変わりません。
――「ミスをしない」ということを特に強調していました
トレーニングは正しい方法でやることが必要です。それができていないと“悪いミス”、“意味のないミス”が出てしまいます。正しいことをした結果のミスならかまいません。特に気になったのは、それが癖になってしまっているということです。たとえばターゲットを狙ったショットの練習でも、10球連続で入れることと、15球連続で入れることは、たった5球の違いですがすごく大きな違いがあります。それができるかできないかというのが、ものすごく重要になってきます。正しいトレーニングを継続してやることです。
試合で最初に考えることは、どのようにポイントを取るか、ということです。そのためには好きなプレーだけを気持ちよくやっていては、長い目で見ると通用しなくなってしまいます。ゲームを組み立てるためのショットが必要で、そしてそのショットは絶対にミスをしてはいけないショットなのです。そのことに選手自身が気づき、学んでいかなければなりません。
――メンタルの部分はいかがでしょうか
常に戦う姿勢を見せなければなりません。それが大きな結果につながっていきます。勝ったり負けたりというのは大きな問題ではありません。試合の結果から、自分に何が足りないのか、何ができているのかを知らなければなりません。そして大抵の場合、負けたときの方が多くのものを学ぶことができます。
正しいことを行い、とてもいい内容の試合ができた。しかし、負けた。それはOKです。そこから多くを学び、さらに成長できるはずです。ただ、ときどきは悪い内容であっても勝つことが必要なときがあります。悪い試合であっても、勝てば次にその悪い部分を直すチャンスがある。
勝った負けただけで選手を判断しがちですが、勝つことも負けることも時と場合によってはどちらも必要なのです。どちらにもよい点と悪い点があります。その勝ち負けのバランスが重要になってくるのです。
――「修造チャレンジ」に来てくれた本村剛一選手はハートを表に出します。一方、錦織圭選手は闘争心を表に出すタイプではありません
しかし、ケイ(錦織)は内面で戦っています。ゴーイチ(本村)とは違うパーソナリティーを持っています。二人だけではなく、みんなそれぞれ違うパーソナリティーを持っています。
先ほど「困難を乗り越え継続していく力が必要だ」と言いました。ケイは今、その力を証明しています。彼は今週からようやくボールを打てるようになりました。この合宿に来てくれてジュニアたちとラリーをしました。とてもテニスを楽しんでいるように見えました。それはテニスができないときも、しっかり準備をしていたからです。困難な状況でも自分を信じ、もっともっと上にいくという強い思いを持っていたからです。あきらめない、というのは大切な“能力”なのです。
――日本ジュニアに共通して足りないものというのはありますか
世界中、どこへ行ってもそれは変わりません(笑)。そこに違いはありませんよ(笑)。日本のような速いコートで育てば、どの国であってもハードヒットばかりしてしまう選手が多くなってしまいます。それは誰もが抱える世界共通の問題です。ただ、日本は島国です。他の国へ行き、いろいろなテニスのスタイルを学ぶ機会が少ないということはあるかもしれません。そのことは頭に入れながら練習する必要があるでしょう。
<了>
ボブ・ブレット(Bob Brett)
テニスマガジン1月号は、錦織圭の独占インタビューを掲載!
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