走る湘南、反町マジックがもたらした変化=選手の成長を促す指揮官の指導力
落ちない運動量「走って、走って、走れ」
反町監督は自主性を促すことで選手を成長させ、チームに大きな変化をもたらした 【Photo:アフロ】
事実、湘南が今季に挙げたゴールのほとんどが、相手ボールをインターセプトしてからのものだが、それは後半になっても走量が落ちず、「チャンス」と判断したら足を止めずにボールホルダーを追い越していく動きが徹底されているからだ。それ故に、堅いカウンターサッカーという印象を与えるのかもしれない。
攻撃に出ればそれだけ守備が手薄となり失点のリスクも高くなる。しかし、そのリスクは攻撃にかける量、質、タイミングの精度を上げることで解消できる。シュートやクロスで終われば相手にボールを奪われないし、カウンターの危険もない。そうした攻撃へ人数をかける動きを常に練習から行っているから、試合でも自然と足が出ている。
顕著なのが、ゲーム終盤になってからの動きで、特に、70分、80分を過ぎても落ちない運動量によって湘南は攻撃の回数を増やすことに成功している。90分間走れる体力、フィジカルを鍛えているのは当然だが、湘南の選手は「チャンス」と判断した場合にはサイドバックも攻撃に参加しハーフウエーラインを越えていく。時には6人、7人と人数をかけて相手ゴールに迫ることもある。笛を吹かれて試合終了と言われるまで運動量を落とさず、相手ゴール前まで仕掛けるという意欲を絶対に失わない。
だから、相手が守備を整えていても、数的には同数にすることも可能だし、何度も何度も繰り返し攻撃を続け、決定機の数を増やしゴールの可能性を高めてきた。ここまで勝ち点を積み重ねることに成功しているのはそうした努力のたまものなのである。
元日本代表監督でもあるイビチャ・オシム氏の言葉に「レーニンは『勉強して、勉強して、勉強しろ』と言った。わたしは選手に『走って、走って、走れ』と言っている」というのがある。今年の湘南はまさにこの言葉通り。反町康治監督に『走って、走って、走れ』と言われJ2を快走している。
指揮官への信頼の強さ
まず、選手からは指揮官への賛辞の声ばかりが聞こえてくる。湘南は今季からシステムを4−3−3に変更した。その中で、アンカーを務め攻守のキーマンとなる田村雄三は「監督にうまくだまされているだけです。おれたちは反町信者ですから」と笑いながら話す。また、阿部吉朗のように「裏表のない人で、信じられる人。それに、僕たちのモチベーションを高めるのがうまい」と監督の器の大きさを挙げる選手もいれば、今季センターバックとFWの2つのポジションを兼務する島村毅は、「監督からは特に何も言われなかったけれど、期待されていると感じた。僕の可能性を広げてくれたと思っている」と感謝にも近い言葉が出てくる。
残念ながら昨年のチームからはこうした声を聞くことができなかった。特に、終盤に入って上位争いから脱落した際は、チーム中からある種の不満の声が聞こえ始めた。おそらく、その時はすでにチームの和が崩壊していたのだろう。
しかし、今年の湘南は違う。ある選手は「一枚岩に見せかけていたのが去年だとしたら、今年のチームは本当の一枚岩になって戦っている。だからブレがない」と話す。それは、反町監督への深い信頼の表れとも言えよう。その信頼の強さを生んでいるのは、指揮官のチーム作りに対するアプローチの仕方はもちろんだが、立ち居振る舞いや、言動、選手への接し方が大きく影響している。