帰ってきた中田浩二=右ひざ手術を乗り越えて

田中滋

小笠原選手の代わりができるのは彼しかいない

地道な努力で、オリヴェイラ監督の信頼も勝ち取った 【Photo:松岡健三郎/アフロ】

 ただ、監督の評価は厳しいものだった。この時期、鹿島は2試合連続でボランチの選手を欠くことが決まっていた。4月22日のACLグループステージ第4戦、シンガポール・アームド・フォーシズとのホームゲームでは、青木剛が出場停止。4月25日のJリーグ第7節のモンテディオ山形戦では、小笠原が出場停止。鹿島にとって、小笠原と青木が組むボランチはチームの生命線であり、特に攻撃のタクトをふるう小笠原の存在は絶対だった。そのためオリヴェイラ監督が誰を代役に指名するのか、注目されていた。

 しかし、両方の試合ともに、中田はベンチメンバーからも外れている。そのことを記者会見で問われたオリヴェイラ監督は「安易な考え方はあってはいけない」と厳しい口調で述べた。
「彼はまだ、競争レベル、特にJリーグとACLの競争レベルには程遠いものであるし、それは技術的な部分ではなく体力的な部分であり、筋力的な部分です。彼はいま、午前中の練習が終わったあとも午後に来て、筋力を高める作業を献身的にやっています。わたしは毎日、彼の状態が気がかりで、どうなっているのかということをほかのスタッフと共に聞いています。いつ戻ってきてほしいというのは、彼自身が示さなくてはいけないのであって、そうでなければこちらも使う自信は出てきません。彼がさらなる努力をし続けることを確信しています」

 両試合とも、パク・チュホがボランチで出場したが、青木と組んだ山形戦ではどちらも攻撃をリードできず小笠原不在ばかりが印象に残ってしまった。

 そして、ほぼ1カ月後、またもや小笠原が出場できない事態となった。5月16日の柏レイソル戦で退場処分を受け、次の24日のG大阪戦で、再び出場停止となってしまったのだ。そこで、この2試合の間で開催されたACLで上海申花との試合後、監督に中田のことを問うたところ、「使えるチャンスがあればできるだけ多く出していきたいと思っている。1日も早く状態を戻さなければいけない」と、そのニュアンスは大きく変わっていた。

 実際、G大阪戦に中田は先発、68分間の出場で1ゴール。フル出場とはいかなかったものの、小笠原の大黒柱の不在を補うだけでなく決勝点も挙げる活躍を見せた。これには監督も称賛を惜しまなかった。
「正直言いますと、まだ回復してる段階です。完全な状態でなかったことは明確にしておきたい。ただ、その中で彼にはお金では換えられない経験があります。その経験でゲームマネジメント、ゲームコントロールができるのは彼しかいないし、小笠原選手の代わりができるのは彼しかいないと思う」

チームメートからも喜びの声が

「この1、2カ月がいちばん長かった」
 中田にとっても、先発復帰までの長い期間の中で、特に苦しかったのが直近の1、2カ月だったという。ひざの状態は、このときも一進一退を繰り返していた。ただ、サブのメンバーに混じって厳しい練習メニューはすべて消化してきた。
 チームメートはそうした姿を常に見守ってきた。
「だいぶかかったなというのが本音ですけどね」
 同い年の本山は苦笑いを浮かべ、ようやく戻ってきた仲間の復帰を喜んでいた。

 中田の復帰を目の当たりにして、目の色が違ったのがボランチを組んだ青木だった。
「大事な試合で点を取るのはさすが浩二さん。昔からよく点を取っていたけど、あらためてすごいなと思いました」

 今季、大迫勇也、パクという新戦力が加入し、戦力の充実が図られた鹿島。センターバックは岩政大樹、伊野波雅彦に加えて大岩剛、サイドバックに内田とパク、さらに左右をこなせる新井場徹。2列目のMFには本山と野沢拓也に、増田とダニーロ。FWはマルキーニョスと興梠慎三に、大迫。唯一、レギュラーとそん色ないバックアップがいなかったのがボランチだった。そこに中田が加わることで、さらにチーム力はアップし競争は激しくなった。

 まだまだ運動量は少なく、監督が言う通り回復の途中ではある。だが、鹿島は6月8日からJヴィレッジでキャンプを張る。オフ期間に走り込めなかった中田にとって、恵みの中断期間となることは間違いないはずだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント