帰ってきた中田浩二=右ひざ手術を乗り越えて

田中滋

復帰戦で、チームを勝利に導くゴール

G大阪では、先発復帰戦で決勝ゴールを決めた中田(右) 【写真は共同】

 右アウトサイドに内田篤人が大きく開く。本山雅志はパスを出し、続けてインサイドに走り込んだ。内田からタイミング良く折り返しのパスを受け取りルックアップ、クロスを蹴り込む。しかし、ボールはガンバ大阪の選手が伸ばした足に当たり高々と舞い上がった。誰もが鹿島のチャンスはついえたと思った瞬間、放物線を描きながら逆サイドに落ちてきたボールの落下点に1人の選手が走り込む。倒れながら足の裏でゴールに押し込んだ。あまりにも唐突な出来事に、スタジアムが静まりかえる中、審判がゴールを認め、鹿島に歓喜の輪が生まれた。中心にいたのは中田浩二だった。

「長かった」
 G大阪との大一番を制したあとの第一声は、ここに至るまでの道のりを吐露するものだった。242日ぶりとなった先発出場。前回の先発は、2008年9月24日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)、アデレード・ユナイテッドとのアウエー戦までさかのぼる。この試合は、左サイドバックで出場したものの、失点に絡むなど、とても誉められる内容ではなかった。あの日から、長いリハビリ期間を経てようやくつかんだ先発復帰戦。自らの復帰戦を祝うゴールでチームを勝利に導いた。

「まさか点を取るとは思っていなかった。自分が出て負けなくて良かった」
 満面の笑みというよりは、ホッと一息ついたことで自然と顔がほころんでいた。

昨年10月に痛めていた右ひざを手術

 昨シーズンの途中、スイスのバーゼルとの契約を満了させ、中田は鹿島に復帰した。名古屋グランパスなど数チームからオファーもあったが、海外にいる間、常に声をかけてくれた古巣の鹿島を選んだ。
 日本に戻ってきた当初は代表候補メンバーにも選出され、鹿島だけでなく日本代表での活躍も期待されていた。しかし、バーゼル時代に痛めた右ひざは悲鳴を上げていた。試合に出場するもパフォーマンスは上がらず、センターバックでもボランチでも周囲の期待を裏切る出来だった。

 アデレード・ユナイテッドとの試合後、ひざの状態を問うと「正直、良くはない」と表情を曇らせた。ただ、それよりも、この試合の直前に大けがを負ってチームを離脱した盟友に、勝利を届けられなかったことを悔やんだ。
「満男(小笠原)がああいう状態なので勝ちたかった。自分のひざは満男に比べれば大したことはないから。日本に帰ってからもまだ試合は続くし、やれる限りはやっていかないといけない」

 だが帰国した後も、中田はチームに貢献することができなかった。ひざの状態も一向に良くなる様子を見せず、プレーをすればすぐに水がたまった。試合での出場も、終盤の守備固めが主な役割となってしまった。そこで10月29日、思い切って再びひざにメスを入れることを決意。リーグ優勝を争っている時期にチームを離れることは、簡単な選択ではなかった。ただ、思うようなプレーができないいま、思い切った判断が必要だった。

 結果的には、これが幸いした。手術で開いたひざは、軟骨が骨に挟まれて押しつぶされ、あともう少し無理をしてプレーを続けていれば、選手生命が絶たれてしまうところだった。

 その後、鹿島は小笠原、中田が離脱した中でもJリーグ2連覇を達成、若い世代の台頭は着実に進んでいた。
 09年の新シーズンに入っても中田の苦しい時期は続いた。シーズン始動を告げる宮崎キャンプは延々と別メニューをこなした。同じ別メニュー組だった小笠原は、シーズン開幕にさえ間に合いそうなハイペースでリハビリメニューをこなしていく中、中田の状態は一進一退。ひざの痛みがなくなったと思いペースを上げると再び痛み出すことの連続だった。

「オレとしてはいつでもやれるんだけど」
 中田本人は、すぐにでもチーム練習に合流したがったがメディカルスタッフは慎重を期した。ようやく全体練習への参加が許されたのは3月24日。手術から5カ月近くを要していた。
 4月19日、サテライトの試合でフル出場したときには、すっかり表情に明るさが戻っていた。というのも、相手はFC東京のサテライトとは名ばかり。出場した選手は、茂庭照幸、ブルーノ・クアドロス、平山相太、赤嶺真吾といったトップの選手たちが大半だった。この試合で、中田は鹿島の全得点となる2ゴールの大活躍。増田誓志の右サイドからのFKをファーサイドで滑り込みながら合わせた1点目、中盤でフリーになったと見るや豪快に左足を振り抜いた2点目、いずれも素晴らしい得点だった。
「いい段階を踏めている。もう少し実戦をこなしたいね」
 確かな手応えをつかんでいた。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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