興梠ではなく大迫が起用される理由=鹿島・オリヴェイラ監督の真意とは

田中滋

ACLでは3試合連続ゴールを決めている大迫。彼の活躍でFW陣の競争は激化している 【写真は共同】

 4月22日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)第4戦を戦った鹿島アントラーズは、ホームのカシマスタジアムにシンガポールのアームド・フォーシズ(A・フォーシーズ)を迎え、5−0の大勝を収めた。
 自陣で守備を固める相手に対し、マルキーニョス、大迫勇也、興梠慎三と3人のFWを同時起用する3トップを採用。攻撃的な姿勢を貫き、興梠が2ゴール、大迫が1ゴールの活躍を見せた。だが、鹿島本来の布陣は伝統の4−4−2。FWの枠は2つしかない。この試合の前まで6試合連続でエースのマルキーニョスと組んでいたのは、日本代表にも名を連ねるようになった興梠ではなく、高卒ルーキーの大迫だった。そこにはオリヴェイラ監督のある意図が隠されていた。

スタメンから外れた興梠が一言「心が折れました……」

 最初は何をしているのか分からなかった。鹿島のクラブハウスの駐車場で囲み取材をするため選手たちを待っていると、姿を現した興梠は、胸の前で棒状のものを握る構えをしたあと、何度も何度もそれがポキリと折れるしぐさをした。
「心が折れました……」

 3月11日、韓国で行われたACLの初戦で水原三星ブルーウィングスに1−4の大敗。帰国してすぐの15日にはJリーグ第2節のアウエーでのアルビレックス新潟戦に1−2で敗れ、公式戦2連敗。中2日で行われる18日の上海申花とのACL第2戦は、ホームでの試合ということもあり絶対に落とせない試合だった。その試合前々日、大一番での先発を告げられたのは大迫。興梠は昨シーズン途中から奪い取ったスタメンの座を明け渡し、気持ちは落ち込んでいた。

 敗れた2試合、興梠のパフォーマンスは確かによくなかった。前線でボールを収めることができず、ドリブルを仕掛けてもすぐに奪われるなど、空回りしている様子がうかがえた。特に新潟戦では、淡泊なプレーを連発。0−2と新潟にリードを許した後、オリヴェイラ監督は、前半45分だけで興梠と新井場徹をベンチに下げてしまった。
 試合後、この交代について問われた監督は期待に応えていないことを理由に挙げた。
「交代させられた選手が期待されたパフォーマンスができていないため、交代せざるを得ないということでもあり、また、スコア的に0−2というビハインドを考えればショック療法をとらなければならなかった」

 そして迎えた3月18日の上海申花戦、小笠原満男の先発復帰もあり攻撃の組み立てができるようになった鹿島は、2−0で勝利を収め連敗を止めた。先発に大抜擢(ばってき)された大迫も、1得点1アシストとすべての得点に絡む大活躍。これ以後、鹿島の2トップはマルキーニョスと大迫の2人となった。

 ただ大迫の活躍に、興梠も黙ってはいなかった。3月22日のJリーグ第3節、ホームでのサンフレッチェ広島戦で大迫に代わって登場すると、ロスタイムに決勝点を決める。さらに4月4日のJリーグ第4節の京都サンガF.C.戦でも、途中出場からカシマスタジアムを熱狂させた。0−1のビハインドの状況から84分に同点弾をアシスト。さらに89分には野沢拓也の強烈なミドルシュートの跳ね返りを押し込み逆転ゴールを決め、チームを苦境から救った。
 2試合連続で文句のつけようのない活躍を見せた興梠だったが、監督は先発を動かさなかった。すると今度は大迫が活躍。4月7日のACL第3戦のA・フォーシーズ戦、4月12日のJリーグ第5節のFC東京戦で、2戦連発のゴールを決めチームを勝利に導いた。

レギュラーFWとしての自覚が芽生えてきた大迫

 余談かもしれないが、このころから大迫の取材対応は大きな変化を見せていた。うつむき加減に受け答えしていた様子もなくなり、態度は堂々としたものに変わった。回答も「次、頑張ります」という簡単なものではなく、自分の意図を言葉で表現するようになり、良いプレーをした試合でも「アントラーズでは通用しない」と、さらに上を見ていた。

 それだけに、4月18日の横浜F・マリノス戦は悔しかったようだ。試合の翌々日、「自分のプレーを出せなかったのが残念です」とコメント。0−0のスコアレスドローで終わった試合で、大迫はいいところがないまま後半早々の54分に興梠と交代させられていた。相手DFには日本代表不動のセンターバック中澤佑二がいた。2人の勝負に誰もが期待を抱いたが、見せ場は少なかった。

「動き出しはだいぶよくなったと思います。ただ、それにこだわりすぎてゴールが遠くなった。サイドに流れるのも大事だけどFWなんで」(大迫)

 センターFWとして中央に構えていればパスが来た鹿児島城西高校時代とは違い、プロの世界ではパスを引き出す動きが要求される。さらに鹿島では、前線が流動的にポジションチェンジを繰り返すため、流れに乗りながらタイミングよく顔を出さないとパスをもらうことができない。大迫は、自分が出た試合の映像を必ず確認している。そうすることで急速に“鹿児島城西の大迫”から“鹿島の大迫”へ成長していた。ただ、課題はかなりの改善を見せていたが、まだまだ意識しないとできないレベル。意識したことでゴールが遠くなっていた。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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