興梠ではなく大迫が起用される理由=鹿島・オリヴェイラ監督の真意とは

田中滋

オリヴェイラ監督が興梠に求めるのはプレーレベルの継続性

スタメン落ちから奮起し、結果を出している興梠(右) 【Photo:World Sport Group/Getty Images/アフロ】

 こうした流れを経て、先日のA・フォーシーズとの一戦では3人のFWがそろい踏みし、中央に構えた大迫が1得点、サイドをうまく使った興梠が2得点の活躍を見せたのである。一見すると、鹿島の監督を務めるオリヴェイラは、興梠よりも大迫を重用しているように見える。だが、監督の意図はそうではなかった。

 A・フォーシーズとの試合前日の公式練習で、オリヴェイラ監督に1つの質問をしてみた。「興梠をベンチに置くことで成長をうながしていたのではないのか?」というものだ。それに対し監督はうなずきながら、この問いだけには質問者の目を見て答えてくれた。

「新井場同様、調子を落としてしまったことがありました。ただ、新井場との大きな違いは彼がまだ若いということです。どうしても若い選手というのは波があります。調子が良いときも悪いときもあって、そこでチームの機能と効率が発揮できていなかったところがありました。また先ほども言いましたように、代わりに選手がいなければそうすることもできないのですが、素晴らしい能力を持った大迫がいるため、代えざるを得ない状況に追い込まれました。ただ、新井場同様、練習の姿勢は下を向かずに努力してきたので、わたしは非常に評価しています。そういった姿勢を年間を通して保てるかということ、継続性がポイントになるわけです。
 また、一時的にポジションを取りました。取ったら気が緩んでチームの機能と効率を発揮できなかったら逆戻りです。その継続性をいかにして保つかということが重要です。(中略)だから先発で出ている選手も、常に危機感を持っていると思うし、そういった危機感と建設的な競争意識がチーム全体の底上げにつながってくるわけです。いまでも若い選手が一生懸命に努力して狙っているということを感じています。気が緩まない1年間になればと考えています」

興梠、大迫の2人を育てつつ結果も出す

“継続性”という言葉はオリヴェイラ監督が求める重要な要素だ。パク・チュホが起用されている理由もそこにある。どのポジションでも浮き沈みが少なく「計算できる選手」ということが、高く評価されているのだ。興梠は、これまでも高いポテンシャルを持ちながら、パフォーマンスがメンタル面に左右されることが大きく、安定したプレーを見せることができていなかった。だからこそ監督は、興梠が広島戦、京都戦と2試合連続でチームに勝ち点3をもたらす活躍を見せても、先発に戻そうとはしなかった。あえてベンチに置くことで、さらなる成長を促したわけである。
 代わりに出場した大迫は試合経験を積み、着々と成長を見せている。大迫が結果を出さなければ興梠の成長もなく、チームは結果を残せずに監督は非難を浴びる。しかし、結果的には2人が同時に成長し、しかも先発を入れ替えてからの戦績は6勝1分け。あらためて、オリヴェイラ監督の怖ろしさを感じる。

 A・フォーシーズ戦の後、ACLグループステージ最大の山場となる5月5日の水原三星戦を見据え、2人のFWは抱負を口にした。
 興梠が「水原戦(のプレー内容)でスタメンを外れたので借りを返したい。次はホームだから絶対に勝ちます」と強い気持ちを言葉にすれば、大迫も「水原の試合はベンチ外だった。悔しい思いがあるので試合に出られたら結果を出したい」と、貪欲(どんよく)な姿勢を見せた。

 日本を代表するFWを2人も育てながら、同時にチームの結果も求めていく。オリヴェイラ監督の壮大な計画はいまのところ順調に進んでいる。

<了>

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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