完敗の鹿島、「ボランチの軸不在」という課題=ACL

田中滋

水原三星戦で隠れていた課題が浮き彫りに

ACLの初戦、水原三星に完敗した鹿島 【写真は共同】

 今季の鹿島アントラーズにとって、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の制覇は、Jリーグでの3連覇と並び、大きなテーマのひとつとして掲げられている。オズワルド・オリヴェイラ監督も常々「クラブとして保持していないタイトルであり、しっかりと狙っていきたい」と抱負を語ってきた。初戦の相手は水原三星ブルーウイングス。グループGで最も強豪と思われるKリーグチャンピオンとの、アウエーでの対戦がスタートとなった。

 韓国に向かう前、鹿島は順調な滑り出しでシーズンに入っていた。JリーグとACLの日程が発表になったときから、ACLの歴代チャンピオンの2チームとACL初戦の水原三星と続く3連戦は序盤の大きな山だった。監督も「われわれに与えられた試練」ととらえ、選手たちも「いつも以上にスタートにコンディションをベストで持っていかないと苦しい」(岩政大樹)と、この3試合を見据えながら調整をした。
 そして、シーズンイン。3連敗も考えられた中、「FUJI XEROX SUPER CUP」ではガンバ大阪を3−0で撃破。続くJリーグ開幕戦でも浦和レッズに対して2−0と勝利。自信を深めて韓国に乗り込んだのだった。しかし、水原三星との試合は1−4と、よもやの大敗。この結果は大きな驚きを持って迎えられた。ただ、そこからは昨季から続く課題が見え隠れしていた。

Kリーグでの黒星で追い込まれていた水原三星

 就任3年目となったオリヴェイラ監督は、就任当初からひとつのサッカーを思い描いていた。鹿島の監督になって最初のミーティング。オリヴェイラ監督は、自分の自己紹介を兼ねて、目指したいサッカーをまとめたビデオを自ら編集し、選手たちに見せている。それは、守から攻への素早い切り替えからゴールを奪うサッカー。つまり、G大阪や、浦和との戦いで見せた鹿島のサッカーは、指揮官が目指す方向を、選手たちが見事に体現したものだった。特に浦和との開幕戦で見せた攻守の切り替えの速さは、相手を圧倒した。得点が生まれたシーンでは、守備側を2、3人上回る数の選手がゴールに殺到している。だが、こうした場面を水原三星を相手に披露することができなかったのである。

 その理由として、水原三星が置かれた状況が大きく作用していた。
 水原三星が本拠を置く水原は、世界文化遺産の華城が街中に点在し、古き伝統と新しさの融合を感じさせる都市だ。ただし、市内で水原三星のユニホームや、チームロゴなどを目にすることは少ない。Kリーグでナンバー1の人気を誇るチームといえども平均の観衆は2万人を超える程度。人口100万人を越える大都市の中では、サポーターの存在感は薄まってしまう。だが、チーム名が示すとおり、水原三星のスポンサーは韓国を代表する世界的企業であるSAMSUNG。Kリーグでも屈指のビッグクラブであり、その動向は常に注目を集めている。

 Kリーグ開幕戦では、“レアル・スウォン”とも呼ばれるビッグクラブが、浦項スティーラースに対し2−3で敗れてしまった。しかも、相手は退場者を出し、1人多い中での敗戦。原因としては、多くの主力選手が海外に移籍したため、一から作り直したチームが機能しなかったからだ。中でも痛かったのが、堅固な最終ラインを形成していたマト(大宮アルディージャ)、李正秀(イ・ジョンス/京都サンガF.C.)というセンターバック陣の移籍。代わりにブラジル人のアルベス、中国人のリ・ウェイフォン、韓国人の郭熙柱(クァク・ヒジュ)でラインを構築することになったが、それぞれ言葉が違う選手たちでは、短い準備期間で連係を取るまでに至らず、ディフェンスラインの裏を狙われ失点を重ねた。

 つまり、2連勝してこの試合を迎えた鹿島に対し、水原三星は絶対に負けられない状況に追い込まれていたのである。試合前日の公式会見でも、韓国メディアからは「鹿島と水原三星の試合は日韓のチャンピオンの試合なのですごく注目されています。特別な覚悟はお持ちですか?」という質問が飛んだ。それに対し、車範根(チャ・ボングン)監督は「KリーグとJリーグとの技術的な差が比べられるでしょう。Kリーグのチャンピオンの名誉を示したい」と答え、強い決意を持って試合に臨むことを示した。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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