完敗の鹿島、「ボランチの軸不在」という課題=ACL

田中滋

持ち味を消されてしまった鹿島

青木(右)も持ち味を出させてもらえなかった 【写真は共同】

 ホイッスルが鳴ると、水原三星の戦い方は徹底していた。鹿島のディフェンスラインの裏に執拗(しつよう)にロングボールを蹴り込む。このシンプルな攻撃に鹿島は手を焼いた。鹿島はここまでの2試合、中盤のプレスでボールを奪い、素早い切り替えでゴールを奪ってきた。その形を完全に消されてしまったのだった。相手の長所を徹底してつぶそうとする水原三星の現実的な戦い方は、ともすると理想を追い求めてしまう日本人にとって不慣れなものだった。
「うちがプレスを掛けると徹底してロングボールを狙ってきた。その分、ディフェンスラインを下げさせられた。相手はノーリスクでも蹴ってきたので、中盤で奪う形がなかった」
 中盤で抜群の存在感を示してきた、ボランチの青木剛はセカンドボールを拾うことに追われ、相手を囲んでボールを奪う得意の形を作らせてもらえなかった。
 しかも、セカンドボールや球際での争いも相手の気迫に負けてしまった。水原三星の選手よりも出足が遅く、苦しい試合展開を強いられることになった。

 本来であればロングボールを蹴られても、ボールをキープしつつ自陣からの組み立てで相手を攻略することができれば問題ない。オリヴェイラ監督が求める攻守の切り替えの速さは、あくまでもプラスアルファの部分。サイドバックも攻撃に加わる分厚いサイド攻撃が、鹿島伝統の得点パターンだ。実際、水原三星のプレスはそれほど強烈ではなく、「向こうもそんなに前から来ていなかった。普通につないでいけたはず」(岩政)という声が選手からも聞かれていた。
 じっくり攻めることはできたはずだが、そのためのピースが、今の鹿島には欠けていたのだ。

痛感したボランチの軸の不在

 これまで数々のタイトルを獲得してきた鹿島だが、その強さが発揮されるときは、必ずボランチに軸となる選手が君臨していた。90年代後半はジョルジーニョ、2000年代前半は中田浩二、ここ2年は小笠原満男。彼らが中央でパスを受け、相手を引き付けながらタメを作ることで、サイドにスペースができ、攻撃の幅を広げてきた。また、相手ペースで試合が進んでいるときは、自陣でじっくりゲームを作り、流れを引き寄せた。
 鹿島は昨季、小笠原が長期離脱した後も、手堅く優勝を勝ち取ったが、あのチームはボランチの展開力のなさを補うため、前線からのプレスに特化したチームだった。五分五分の流れのときは我慢することができるが、一旦相手に行ってしまった流れを取り戻すことは、残念ながらできなかった。

 水原三星戦でも同様だった。相手に移ってしまった流れを変えることができない。
 44分にセットプレーのこぼれ球から先制点を許すと、前半ロスタイムにも速攻から失点してしまった。
「われわれのチームにとっては最悪の試合でした。先にゴールを決めた水原三星の方が主導権を持っていたのは当たり前かと思います」
 オリヴェイラ監督は、試合後に先制点が重要だったことを指摘した。裏を返せば、そこから盛り返すことができないことを認めたことになる。

 ACLでの戦いは、1戦1戦がトーナメントのような緊張感を持つ。グループステージとはいえ、純粋なリーグ戦とは一試合の重みが違う。これから先も、鹿島の長所を消そうとしてくるチームは多いだろう。そんなとき、チームに落ち着きを与える選手がどうしても必要となる。現在、少しずつ出場時間を延ばしている小笠原が復帰すれば、ひとまずの解決は見る。さらに、負傷中の中田も控えている。だが、2人は今年30歳。いつまでもその力に頼ることは難しい。シーズン前から、フロントは苦しい状況を予期していた。強力なブラジル人選手を獲得することも模索されたが、あえて獲得は見送られた。若手選手の中から、新たな軸になる選手が出てくることに期待をかけたのだ。

 ACLの次戦は3月18日、鹿島はホームに上海申花を迎える。グループステージの内訳はシンガポールのアームド・フォーシーズの力が落ちることから、ホームでの上海戦は必ず勝利を挙げ、勝ち点3を獲得しなければならない。Jリーグが併行する過密日程は、連戦となり、チームの編成に変更を加えるのが難しい。小笠原のスタメン復帰もギリギリのタイミングだ。となれば、オリヴェイラ監督は、相手に流れを渡さないため、いま一度プレスを徹底させるはず。
 もし、それが機能しなかったら……。水原三星に代わり、今度は鹿島が追い詰められることとなる。

<了>

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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