もし戦わば!

t.SAKUMA
 大相撲初場所で復活優勝を遂げた朝青龍。アフリクションで戦慄の右フックで勝利を収めたヒョードル。後楽園ホールで、またもや死闘を繰り広げ劇的勝利を収めた前田尚紀。やっぱり、格闘技は面白い、と改めて感じると共に、ボクの中で勝手な空想も生まれてきた。
 ボクにとって、最初の格闘技との出会いが何だったのかは、よく覚えていない。ただ、15歳の時にある道場に入門した事は覚えている。その道場とは、合気道養神館。そう、館主は塩田剛三だ。(しおだ ごうぞう・1915年− 1994年。合気道家。身長158cm、体重46kg。「不世出の達人」と高く評価され、「現代に生きる達人」とも謳われた。Wikipediaより抜粋)。
 もちろん、ボクは入門してすぐに、自分は達人にはなれないと悟り、稽古には行かなくなってしまったが。

 でも、今でも、塩田剛三が最強なのではないかと思っていたりもする。だから、先日の朝青龍やヒョードルのような、大きくて強い人間の活躍を見ていると、頭の中では塩田剛三がもし彼らと戦ったらどうなるのだろう、と考えてしまったりもする。そして、ボクの頭の中では最終的に、塩田剛三なら例え勝てなくても負けることはないという結論に達する。
 ボクには、朝青龍が塩田剛三のマワシを取れるとは到底考えられない。(それより、塩田剛三のマワシ姿も想像できないが)。もちろん、ヒョードルの右フックを喰らってしまう塩田剛三も想像できない。きっと塩田剛三なら、ヒョードルのパンチをかいくぐって避けるだろうし、テイクダウンされることもないと想像する。
 Wikipediaによれば、塩田は8年間、金魚の動きを見て反射神経を磨いたとあるが、実際にそれもうなずけるような身のこなしをみせる。(塩田剛三の動きを見たことのない人は、ぜひYouTubeでご覧ください)
 ところで、朝青龍やヒョードルが大一番で大活躍したその日、後楽園ホールのNJKF興行では、前田尚紀(全日本キック)が米田貴志(NJKF)との交流試合で、大激闘の末に勝利を収めていた。
 前田は一昨年8月の格闘技界の”超名勝負”梶原龍児戦をはじめ、名勝負を製造しまくっている。いや、請け負っているのか。
 なぜ、こうも見応えのある戦いを頻繁に見せ続けることができるのか。その要因の一つが、前田の持つスタミナだろう。前田には後半になっても湧き上がるような底知れぬ体力がある。先日の試合後に小林聡GMが明かすには、今回、前田は膝を痛めていてスパーリングもままならなかったという。しかし、そんな前田に対して小林GMは「もっと練習しろ」と檄を飛ばしたという。あれだけの動きを見せる前田だ。多分、想像を絶する練習をしているに違いない。それだからこそ、結果的に誰よりも強い心を手に入れることができ、また勝利を収めたのだろう。


 それでだ。そんな前田の試合を見た後に、やはり、どうなるのだろうと考えてみた。もし、前田尚紀が塩田剛三とキックルールで3分5Rを戦ったのなら、どうなるのだろうかと。
 すると、ボクの頭の中では、朝青龍にも、ヒョードルにも負けることなかった塩田だが、もしかすると前田には苦戦し、危うくすると負けてしまう光景が浮かんできた。

 試合序盤、1、2Rこそ“神技”で前田の攻撃を見切っていた塩田だが、3Rあたりで疲れが見え始めると前田のローをたびたび被弾。しかし、それでも合気の“崩し”で前田を徹底的に“こし”に入る。ところが、いくらこかされても前進し、一向に攻撃の手を緩めない前田。さすがに、これには達人も参った。
 4R終了後のインターバル、スタミナ切れした塩田が「前田くん、もう分かったよ。キミの執念にはかなわないよ」と、自ら負けを認めてしまう。前田尚紀があきらめない心で掴んだ勝利。朝青龍もヒョードルもなし得なかった、まさかの達人越えの瞬間だ。

 全く勝手なボク一個人の妄想にすぎないわけだが、塩田の技術を屈服させるのではないかと思わせる程の戦いを、前田は先日の試合で見せてくれた。(ちなみに、塩田は喫煙者であり、重たいグローブを付けて動き回るのは、かなりのスタミナの消耗が予想される。また、素手ではないので、技の自由度も制限されるだろう。もちろん、これが素手での戦いなら話は違ってくる) 

「もし、戦わば!」。朝青龍、エメリヤーエンコ・ヒョードル、 前田尚紀、そして塩田剛三。決して、交わることのないであろう格闘家達を空想で戦わせるのは、結構面白かったりする。(オタクだけかもしれないが……)。強さを求めるという方向性において彼らは、競技は違えど同じ人種と言っても良いかもしれない。今年も、そんな彼らの、ゾクゾクするような強さをたくさん見たい。
「いや〜、格闘技って本当に面白いですね」。(もちろん、水野晴郎風だ)
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