過去を払しょくしたパチューカ=準々決勝 アルアハリ 2−4 パチューカ
「5位決定戦」復活の背景にあるもの
ドリブル突破を図る「エジプトのジダン」ことアルアハリのアブータリカ(右) 【Getty Images】
試合に入る前に、ここで今大会のレギュレーション変更について言及しておきたい。それは「5位決定戦」の復活である。「何だ、ビリ決定戦じゃん」と思う方は、ちょっと認識不足。現在のクラブW杯は7チームが参加なので「ビリ決定戦」ではない(今大会の場合、開幕戦で敗れたワイタケレが事実上7位の扱いとなる)。
この5位決定戦が、前回大会では行われなかった。正式な理由はアナウンスされていなかったが「客が呼べない」という切実な問題があったことは見逃せない。いくら日本人選手を起用したところで(05年のシドニーFCには三浦知良が、06年のオークランド・シティには岩本輝雄が、それぞれ期限付き移籍していた)、やはり集客には限界もあるし、大会運営のあり方としても健全ではない。こうした背景も、5位決定戦の廃止に少なからず影響を与えたのではないかと、個人的には考えている。
ところが、この「客が呼べない」試合の廃止は、大会に新たな問題が生じさせることとなる。準々決勝で敗れて、たった1試合のみで日本を去らねばならないチームが出てしまったのである。その“犠牲者”となったのがパチューカであった(ここでようやくこの日の試合の話につながる)。昨年、楽しいパスサッカーを披露してくれたものの、エトワール・サヘル(チュニジア)の堅守に阻まれ、0−1とわずかな差で敗れたパチューカは、このたった1試合のために地球1周分の移動を強いられた。パチューカの選手たちの悲嘆ぶりを見て、さすがに「これはまずい」と主催者側も考えたのか。今大会から5位決定戦は復活し、18日の準決勝とセットで行われることとなった。平日の16時30分キックオフは、集客の面でいささかつらいものがあるが、昨年のパチューカの悲劇を繰り返すよりははるかにマシである。この判断については、私は大いに評価したい。
ところで初戦で敗れる悲哀といえば、アルアハリにも苦い経験がある。05年の初戦でアルイテハド(サウジアラビア)に敗れたアフリカの“赤い悪魔”は、さらに5位決定戦でもシドニーFCに敗れ(「カズ効果」で会場の観客は一斉にアンチに回った)、最下位に甘んじるという屈辱を味わっている。大会が楽しい思い出となるか、それとも苦渋に満ちたトラウマとなるか、すべては初戦の結果次第。であるがゆえに、この日の試合で両者がどのような試合運びを見せるかが、ひとつの注目点となっていた。
まったく無駄がない、アルアハリのカウンター
それに対して4−4−2のアルアハリは、しなるようなディフェンスで相手の勢いを殺し、スキあらば刺すようなスルーパスを繰り出してくる。ポゼッションではパチューカが圧倒するものの、しかしボールは左に右に流れるばかりで、なかなか前進しない。むしろ縦方向への意欲は、アルアハリの方が上回っている印象である。
それにしてもなぜ、パチューカは仕掛けないのだろうか。
試合後の会見で問われたエンリケ・メサ監督は「選手たちはボールをタッチするたびに『今日はこういうプレーをしよう』と判断する。少しずつ(ゲームの中で)調子を上げていくものだ」とコメントしている。おそらくそれが、メキシコのリズムというものなのだろうか。ともあれパチューカのサッカーが、ようやく“温まって”きたと感じられたのが、前半20分を過ぎたあたり。パスの速度が増し、受け手の動きも活発になっていく。だが、この試合最初のゴールは、見る者の意表を突く形で生まれた。
前半28分、ハーフウエーラインでの競り合いに勝利した「エジプトのジダン」ことアブータリカが、そのままドリブルで左サイドを駆け上がる。このカウンターに、3バックでラインを高めに設定していたパチューカ守備陣が一瞬パニックに陥った。慌てて戻る相手ディフェンスの間隙(かんげき)を突こうと、アブータリカが低いクロスを折り返すと、これがDFピントの足に当たって、そのままGKカレロの逆を突くニアに転がっていく。ボール支配率で圧倒していたパチューカ(65%はあったのではないか)に対し、アフリカ王者はたった1回のチャンスで見事、先制ゴールを挙げてしまった。
アルアハリのサッカーは「アフリカのスタイル」というよりも、むしろ典型的なアラブのそれであるといえよう。ただし、われわれがW杯予選やACL(AFCチャンピオンズリーグ)で目にするような中東のサッカーと比べると、戦術的にも技術的にもはるかに洗練されている。すなわち、カウンターの鋭利さに、まったく無駄がないのだ。
その真骨頂といえるのが、前半終了間際の45分に見せた、追加点のシーンである。センターバックのクリアボールをハーフウエーラインでアブータリカが受け、縦に抜け出た8番のバラカトにパス。そしてバラカトがセンターに折り返し、待ち構えていたアンゴラ人FWのフラビオが右足で豪快に蹴り込む。今度は文句なしのゴール。たった2つのチャンスを、いずれもゴールへと結びつけたアルアハリが、試合を2−0で折り返した。