過去を払しょくしたパチューカ=準々決勝 アルアハリ 2−4 パチューカ

宇都宮徹壱

まるでプロレスのような試合展開

延長戦を制したパチューカは、準決勝で南米王者のリガ・デ・キトと対戦する 【Getty Images】

「アンフェアな感触を持った。というのも前半の時間帯、われわれは相手よりいい内容だった。にもかかわらず0−2とリードされてしまった」(パチューカのメサ監督)

 後半開始で注目すべき点は、パチューカがどういう修正をしてくるかであった。
 3バックでディフェンスラインを高めに設定するシステムは、この試合では思い切り裏目に出てしまった。さりとて2点のビハインドを考えれば、前傾姿勢を崩すわけにもいかない。ポゼッション志向も、そのままだろう。では、どこをテコ入れしてくるか。メサ監督は、ハーフタイムで2人の選手を一度に替える決断を下す。ピッチに送り込まれたのは、攻撃的なモンテス、そして守備的なロハス。2人とも登録はMFだ。

 そして後半開始早々の2分、途中交代したばかりのモンテスが、いきなりFKを直接決めて見せる。低めの弾道に対して2人の選手が走り込み、かすかに触ったかにも見えたが、少なくとも相手GKを幻惑させるには十分な働きだった。この起死回生のゴールが、パチューカ反撃ののろしとなる。後半28分には、ペナルティーエリアのサークル付近でFKのチャンスを得ると、今度はアルゼンチン人のヒメネスが直接これをたたき込み、ついにパチューカが同点に追い付く。カウンター2本で2点を挙げたアルアハリに対し、セットプレー2発で追いついたパチューカ。それぞれの必殺技をいかんなく発揮した試合展開は、まるでプロレスのようである。

 試合が振り出しに戻ってからは、試合はややこう着した状態に陥る。特に、アルアハリの危険な飛び出しは、すっかり影をひそめてしまった。これはパチューカ守備陣が、アブータリカとフラビオの2トップ、そして危険なオーバーラップをしてくるMFのバラカトに対して、マンツーマンに近いマーキングを施したためである。とりわけ、後半から出場したロハスは、ストッパーとしてフラビオをしっかりマークしながら、ボールを持つと前線までドリブルを仕掛けて何度もチャンスを作る。このロハスの勤勉な働きぶりは、直接ゴールには結びつかなかったものの、間違いなくメサ監督が施した「工夫」であった。

 両者の「負けたくない」メンタリティーのぶつかり合いは、結局90分間で決着が付かず、2−2のまま今大会初の延長戦に突入。しかし最後は、パチューカが地力の差でアルアハリをねじ伏せる。延長前半8分にはアルバレスが、そして延長後半5分にはヒメネスがこの日2点目となるダメ押しゴールを決めて4−2とすると、最後は「オーレ、オーレ」のパス回し。さながら闘牛士のような細心さで、パチューカが巧みにゲームを殺し、タイムアップとなった。

「試合内容が良かった方が勝った」

「われわれのチームは『パチューカに勝てるのではないか』と舞い上がってしまい、それが焦りになり、失点につながってしまった。守備も最後まで守り切ることができなかったし、いろいろと細かい問題もあった」

 アルアハリのポルトガル人監督、マヌエル・ジョゼの敗戦の弁である。これに呼応するかのように、パチューカの指揮官・メサは自信たっぷりにこう語る。

「試合内容から考えると、今日の勝利は自分たちにふさわしいと思っている。(中略)今日は試合内容はパチューカの方が良かったし、良かった方が勝ったという単純明快な話だと思う」

 この言葉が、ほとんどすべてを言い表していると思われる。前半こそ、アルアハリは自分たちの得意とするスタイルで2ゴールを挙げたものの、その後のパチューカの修正に対して、なす術(すべ)もないまま、漫然と失点を重ねるばかりであった。

 今大会、最多の3回目の出場を果たしたアルアハリは、おそらくアフリカでは無敵に近い存在なのだろう。それでも、試合内容で見れば、北中米王者と比べて大きく見劣りしていた。とはいえアルアハリは、2年前には3位決定戦で同じメキシコのクラブ・アメリカに2−1で勝利している。当時もジョゼ監督がチームを率いており、アブータリカやフラビオをはじめ、主力メンバーは半分以上が今回と同じだった。たまたまこの日は実力を発揮できなかったのか、それともアフリカの競技レベルが下降傾向にあるのか。今は安易な断定は避けるべきなのかもしれない。ただ「われわれはいつものパフォーマンスができていなかった。プレッシャーなど、精神的な部分に敗因があったのではないか」(ジョゼ監督)というコメントに、何かしらのヒントが隠されているように思える。
 
 最後に一点、強調しておきたいことがある。それは、パチューカの試合内容の良さを下支えしていたのが、戦術や技術以上に、前回大会のトラウマの払しょくという強い目的意識があった、という事実だ。初戦で敗れることのつらさと恐怖、そして準決勝で南米王者のリガ・デ・キトに挑む重要性に、パチューカは極めて自覚的であった。昨年、たった1失点で涙を飲んだキャプテンでGKのカレロは「今日も涙が出たが、それは喜びの涙だった」と、感無量で語っていることからも、それは明らかだ。
 これは開幕戦を戦ったワイタケレにも言えることだが、クラブW杯の日本開催も4回目を数え、この大会に明確な目標を掲げるクラブが出てきたことは、ホスト国の人間のひとりとして純粋にうれしい。パチューカの勝利はまさに必然であり、彼らは見事に前回大会の不名誉な過去を払しょくしたのである。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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