中国スポーツのエリート教育に変化の兆し

朝倉浩之

未来の五輪メダリストを夢見る子どもたち。5〜6歳から厳しい練習に励んでいる 【朝倉浩之】

 2004年アテネ五輪では、中国の躍進ぶりが世界を驚かせた。金メダル数で初めてロシアを抜き、米国に次ぐ32個を獲得。そして来年の北京五輪では、その数をさらに伸ばすことを絶対的スローガンとして、現在は各競技の国家代表が最後の冬季合宿に入っている。そんな“スポーツ大国”を支えるのが、中国独特の選手育成システムだ。優秀なアスリートの卵を幼い頃に選抜し、専門のトレーニングを受けさせて、その後、省代表、国家代表と階段を上り、最終的に五輪出場を頂点とするピラミッド型の育成システムである。そして、そのピラミッドの底辺を支えるのが、全国に221カ所ある『国家体育総局』傘下のスポーツ学校だ。彼らが各地域にネットワークを張り、優秀なアスリートの卵を見つけ出して育成し、このピラミッドへと送り込むのである。

“世界王者の揺りかご”の実態

什刹海(シーシャハイ)体育学校の中庭。デッキチェアが置かれ、開放的な雰囲気だ 【朝倉浩之】

 北京中心部にある什刹海(シーシャハイ)体育学校は、その中でも「世界王者の揺りかご」と呼ばれる名門校だ。これまで3000人のスポーツ選手を育て、そのうち32人が国際大会で優勝。6人の五輪金メダリストを生み出した。現在、卓球の世界ランク1位である張怡寧も出身者の一人である。中国の体育学校と聞くと、少し謎めいた場所を想像するかもしれない。だが、中に入ると、その開放的な雰囲気に少し意表を突かれる。校舎は近代的なデザインの作りで、緑に包まれた校庭があり、パラソルの下のデッキチェアーでは、休憩時間の生徒たちがジュースを片手にお喋りに花を咲かせる。体育館やテニス・バスケットコートなどをはじめ、設備が非常に整っていて、周辺のバラックが並ぶ下町の雰囲気とは対照的だ。

 「体操館」では、まだ小学校に入るかどうかくらいの少年少女がくるくると宙返りをして鉄棒や平均台などの練習をこなしていた。コーチの厳しい叱責(しっせき)の声が響きわたり、私の方が身を硬くするくらいだ。この学校には、卓球、体操、バレーボールなど中国の得意種目の代表「予備軍」600名ほどが在籍する。特に体操は5、6歳から10歳までと年齢層は低い。男児は短パンに半裸。女児はレオタード。平均台の上で宙返りをするが、足を踏み外して、転倒する……だが、それにもめげず、また台に駆け上がり、再度、挑戦する。コーチの指導の声は、「子どもたちに何もそこまで」とこちらが思うほど、厳しい。だが、この張り詰めた空気も当然である。優秀な選手は、早い段階で選抜されて「北京市代表」に送り込まれ、この学校を“卒業”する。一方、一定の年齢で見込みがないと判断されれば、親元に送り返される。『育成』とは言うが、いわば毎日が選抜の連続というわけだ。

 同校の石風華副校長は「我が校が優秀な選手を輩出できるのは“早期教育”、“優秀なコーチ陣”の2大特徴があるからだ」と胸を張る。そして、この『早期教育』システムこそが、中国の金メダル量産体制を支える屋台骨となってきたのだ。

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著者プロフィール

奈良県出身。1999年、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。2003年、中国留学をきっかけに退社。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする各種ラジオ番組などにも出演している。

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