世界女王vs.新体操王国ロシアの熱き戦い=第14回イオンカップ世界クラブ選手権

椎名桂子

カプラノワ、2年ぶりV アクシデントにも動じず

今回のフープで、新しい魅力を開花させたカプラノワ 【榊原嘉徳】

 カプラノワの3種目目フープは、「トゥーランドット」にのせた美しくドラマチックな演技で、決勝でもまったくすきがなく18.700。能力は高いが、表現力や魅力という点でもの足りないと言われていたカプラノワが自らの壁を破った作品になりそうだ。
 バレリーナのように美しいピボットを見せるセシナも、リボンで18.450という驚くべき高得点を出し、ロシア勢のワンツーフィニッシュをほぼ決定的にした。

 最終種目のクラブでは、セシナはほかの種目に比べてやや手具操作のぎこちなさが目立ち17.058。しかし、リボンでの貯金がものを言いベッソノワを上回る。そして、最後の演技者となったカプラノワは、ロープの演技を披露。演技初めでは、足に巻きつけたロープがほどけないというまさかのアクシデントに見舞われるが、落ち着いて対処し、中盤以降はミスを取り返そうという気迫も感じさせる演技で17.900をもぎ取った。有終の美を飾る演技というわけにはいかなかったが、ミスしても崩れず持ちこたえたところが、もうすぐ20歳になろうというカプラノワの成長だろう。

 数年前までイオンカップの採点には疑問が残ることが多かった。しかし、今年は違った。ベッソノワの3位を残念に思う人は多いだろうが、ミスすれば点数が下がる、その当たり前のことが当たり前に行われた大会となった。試合後の記者会見でもトップ3の3人には笑顔が見えた。今回は負けても、次に自分がよりよいパフォーマンスができれば勝つチャンスはある、と彼女たちは知っているように見えた。
 スポーツなら当然と思われるそんな気持ちをもつことが、採点競技においては難しいこともある。新体操というスポーツは長年そういう状況にもあったのも事実であるし、現在でもなくなったとは言えない。しかし、すこし変わってきているような、そんな風に思える。世界選手権で勝ったベッソノワもミスすれば勝てない。それでいいのだ。

ジュニアの横山、日本人初のメダル獲得

ジュニアの横山は、生き生きとした演技で日本人初のメダル獲得 【榊原嘉徳】

 また、今回のイオンカップでは、ジュニア個人総合で横山加奈(NPOぎふ新体操クラブ)が3位に入賞するという快挙を成し遂げた。1994年から行われているイオンカップ14回の歴史の中で、日本人がメダルを獲得したのは初めてだ。北京五輪の個人枠を逃し、個人競技に関しては暗雲がたれこめつつあった日本の新体操界に、横山の健闘は勇気を与えてくれた。
 身体能力とスタイルに恵まれた海外のジュニアに混じって、豊富な練習量と科学的なトレーニングに支えられた横山の、的確で安定した演技が認められたということで、日本の新体操の活路が見えてきたのではないだろうか。こうして日本のジュニア選手が評価されたという点でも、ほんの少し、新体操の採点にも変化が見えたように思える今回のイオンカップだった。

 来年の北京五輪では、だれが勝つのか。予想はますます難しく混沌(こんとん)としてきた。しかし、だからこそおもしろい! 北京五輪、そして来年の世界大会からも目が離せなくなってきた。

<了>

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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