フィギュアスケート、スケートアメリカ見どころ

青嶋ひろの

アメリカのエースの座は

エバン・ライザチェク 【Getty Images Sport】

 男子シングルの楽しみは、なんといってもエバン・ライザチェクとジョニー・ウィアー、二人の全米チャンピオンの直接対決。情熱的な青年の魂を演じ、いかにもアメリカ人らしい滑りのライザチェク。繊細で中性的なスケートは、ヨーロピアンスタイルといっていいほど洗練されているウィアー。まったく正反対の個性を持つふたりは、アメリカのエースの座を競う好敵手でもある。

 ウィアーが04年から3年連続全米チャンピオンとなった後、07、08年はライザチェクがその座についている。意外にもウィアーがスケートアメリカ初出場ということで、シーズン初戦から両雄がぶつかるのは初めて。どちらがより多くの観客の心をつかむのか、二人ともに課題としている4回転に初戦から挑んでくるのか……さまざまな点で見のがせない対決だ。

 この二人に注目が集まるなか、男子もやはり、若手の急速な追い上げが予想される。まずは今シーズンからシニア入りのアダム・リッポン(米国)。彼もまた世界ジュニアチャンピオンの称号を手に、鳴り物入りのシニアデビューだが、大きな話題となっているのは彼がトリプルアクセルを入れてくるかどうか。実はリッポン、ジュニアといえどチャンピオンになるために必須なトリプルアクセルを一度も試合で成功させることなく、世界ジュニアを制した。それだけ細部にわたるさまざまな技術が優れていたということだが、そこに練習を続けているトリプルアクセルを成功させれば、いきなりのグランプリシリーズ表彰台も遠くはない。オフシーズンはニコライ・モロゾフコーチの元、安藤美姫、織田信成、村上大介らとともに競ってジャンプ練習に励んだという。例年以上に注目の、ジュニア王者デビュー戦となりそうだ。

新興勢力がトップを脅かす

ジョニー・ウィアー 【Getty Images Entertainment】

 一方で対照的な若手は、カナダのケビン・レイノルズ。彼はシニア2年目の17歳。しかしこの若さでトウループとサルコウ、2種類の4回転を持ち、4−3−3などの驚異的なコンビネーションジャンプも公式戦で成功させている(史上、同等のコンビネーションジャンプを成功させたのは、ロシアのエフゲニー・プルシェンコのみ)。去年まではまだジャンプばかりの選手だったレイノルズ、リッポンとは逆方向での成長を、今年は見せてくれるかどうか。

 さらにもう一人、シニア3年目の19歳、日本の小塚崇彦(トヨタ自動車)にも熱い視線が集まっている。昨シーズンの世界選手権で堂々8位に入ったことから、今年はファイナルもぜひ狙いたいところ。彼も決まれば公式戦初成功となる4回転ジャンプ、今までになく演劇的要素に富んだフリープログラム「ロミオ」など、チェックしたいポイントは多い。また、ちょっと大きすぎる期待であることを承知の上でいってしまえば……ぜひウィアー、ライザチェクを破り、表彰台の頂点を、小塚崇彦には狙って欲しい。

 スケートアメリカは、05年高橋大輔、06年織田信成、07年高橋と、3年連続で日本男子が金メダルを獲得している(その間、2位は3年連続でエヴァン・ライザチェク)。今年は高橋、織田の出場はないが、彼らに変わってこの記録を引き継げる力が、小塚崇彦にはすでにあるのではないだろうか。
 グランプリシリーズ前、日本男子は織田信成(関西大学)のネーべルホルントロフィー優勝、南里康晴(ふくや)のメラノカップ優勝、無良崇人(倉敷翠松高校)のフィンランディアトロフィー優勝、さらに織田のカールシェイファーメモリアル優勝と、エース高橋を追いかけるメンバーの大活躍に沸いている。来シーズンに迫ったバンクーバー五輪出場をめざし、待ったなしの戦いがすでに始まるなか、小塚崇彦にもまた大きな期待をかけてしまうし、彼自身もじゅうぶん、勝つつもりでスケートアメリカに臨んでくれるだろう。

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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