カブスファンよ、永遠にともに=小グマのつぶやき

阿部太郎

福留が見せた「2日酔い」打法

 まず、前回のコラムの続報から。福留孝介が地区優勝した後の会見で、「まじで? まじで?」と言葉を失った翌日(現地時間21日、以下すべて現地日付)の全体練習。優勝した後に練習するなんて、「日本では考えられない」と驚いていたが、結局カブスも練習しなかった。おそらく、報道陣がクラブハウスを出た後に、ホワイトボードに書かれてあった練習時間が書き換えられたのだろう。翌日は13時20分開始の試合だったが、選手がグラウンドに現れたのは12時ぐらい。みんな、一様に“おねむモード”全開だった。もちろん福留も例外ではなく、とにかく「眠たかった」。睡眠時間「4時間ぐらい」では仕方ないだろう。この日は打撃ゲージにすら行かなかった。

 だが、その日福留は「1番・ライト」で先発出場し、8月25日以来というマルチヒットを記録した。さらに、守備でもライトからホームへ“レーザービーム”を披露し、9月の不振がうそのような活躍を見せる。本人は「(打席時に)ボールが4つに見えた」と冗談を言ったが、「2日酔い」打法もたまにはいいかも。この勢いでプレーオフの晩も……だめですね、はい。

ファンとカブスのきずなは夫婦並み!?

 さて、プレーオフが10月1日からスタートする。ここで、カブスの壮大なストーリーは一応の決着を見る。100年間という時間を、最後はハッピーエンドという形で終わらせるのか、それとも、再び悲しみで包むのか。「愛すべき負け犬」というありがたくないニックネームをつけられたカブスが、「ことしこそ」、「愛すべき勝利者」となってファンに祝福されるのか。それは、よくアメリカ人が使うフレーズ「You never know(誰も分からないこと)」だろう。ただ、一つだけ分かっていること。それはカブスが勝っても負けても、ファンは“カビー”を応援し続けて、壮大な夢を見るということだ。もちろん「ことしこそ」の思いはどこよりも強いのは間違いないが。

 先日、地元紙で面白い記事を目にした。カブスファンが、10月のビジネス予定や旅行予定をキャンセルするというものだった。当然カブスのために、だ。あるファンは、10月に予定されている出張をすべて取りやめると書いてあった。またあるファンは、ガールフレンドと立てた旅行プランをどう変更するか、四苦八苦しているという。なんだか、熱狂的なレッドソックスファンの彼氏と、キャリアウーマンの彼女の恋愛を描いた映画『2番目のキス』のような話だが、この街でもそんな人間はごまんといる。ファンとカブスの結び付きは、ある意味、夫婦関係や家族関係と同じぐらい深いのかもしれない。

紙面をにぎわす言動は情熱の現われ

 ことしは(いつもそうなのかもしれないが)、カブスファンの話題が紙面を踊ることが多かった。あれは4月中頃だったか、レッズのアダム・ダン(現ダイヤモンドバックス)がライト場外へ本塁打を打つと、その後、ボールが次々とグラウンドに投げ込まれた。本塁打の後にグラウンドにボールを返すのはカブスファンの定番だが、続々と投げ込んだのは、まぁ一種の腹いせなのだろう。これにレッズの専属ラジオキャスター、マーティ・ブレナマンが「カブスファンを見ていると不快だ。こんなファン見たことがない。こんなんだから、みんなカブスが負けてほしいと思うんだ」とぶちまけたからさぁ大変。翌日、監督と選手にこの発言に対する質問が飛んだ。だが、彼らがファンを非難することは絶対にない。カブスファンの情熱、そしてそれが彼らのエネルギーになっていることを誰よりも分かっているからだ。ルー・ピネラ監督はその日こう言った。

「カブスファンが不快だなんて思わない。彼らはただただ、ゲームに入りこんでいるだけなんだよ。それが彼らのやり方さ」

 8月にも、イリノイ州選出の上院議員で、大統領候補のバラック・オバマが「カブスファンは酒を飲むのに忙しくて野球に集中していない。野球に集中しているのはホワイトソックスファンだ」という旨のコメントをしていたが、こうやって話題に上がるのも、カブスファンだからだ。ときに、その情熱が違った方向に行く。歯止めがきかないことも多々ある。でも、その情熱がリグレー・フィールドを毎日満員にし、勝っても負けてもグラウンドに足を運ばせる。そして、勝っても負けても、お酒でカンパーイ。「レッツゴー、カービー」の合唱とともに、ファンもどこかへ行ってしまう。

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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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