カブスファンよ、永遠にともに=小グマのつぶやき

阿部太郎

心温まるドミニク君の始球式

100年ぶりの世界一を目指すカブスを応援する地元ファン 【Getty Images Sports】

 ここで、ことしあったカブスファンと、カブス球団、そして選手との温かい話を一つ。

 悲劇が起こったのは7月10日。テッド・リリーの放ったファウルボールが、この日初めてリグレー・フィールドを訪れた7歳のドミニク・ディアンジくんの頭部に直撃した。すぐに病院に運ばれ、命に別条はなかったものの、ドミニク君の初リグレーは、恐怖の思い出だけが刻みこまれた。誰もが楽しむその場所で。

 しかし、それから1カ月もたたない7月27日、ドミニク君は人生で2度目のリグレー・フィールド来場を果たした。球団が彼を始球式の投手として招待したのだ。もちろん、キャッチャーはテッド・リリー。ドミニク君はリリーへ、始球式の前に一通の手紙を渡した。

「親愛なるリリーへ。僕の投げる球はハードで、高いところにいくから、キャッチャーマスクと胸にあてるプロテクターだけはしっかりつけた方がいいよ。あなたの友達、ドミニクより」

 もちろん、冗談。だけどこの話を聞いたときは、なんとも胸が熱くなった。小さな男の子が、恐怖に包まれた場所へ再び戻ってきた。お父さんと一緒に、強い足取りでマウンドへ向かう。小さい体すべてを使って、大きな硬球を投げ込んだ。ふわーと浮かんだボールがリリーのミットに収まると、観客の誰もが、いや、記者の人間も、球場にいるスタッフも、選手も、誰もが万雷の拍手を彼に送った。マウンドでリリーとハイタッチをしたときの、ドミニク君は満面の笑みを浮かべていた。その試合、ドミニク君はファウルボールが飛んできても、しっかりとガードしてくれるバックネット裏に座った。彼はその日8歳の誕生日を迎えた――。

「ことしこそ、幸あらんことを」

 今回でこの連載は終わることになる。最後はプレーオフのことについて書こうかとも思ったが、やはり、どうしてもカブスのファンのことについて書きたかった。カブスは、福留孝介のいるチームである。カルロス・ザンブラーノ、アルフォンゾ・ソリアーノ、デレック・リーらスター選手を擁したチームでもある。だが、何よりも歴史があり、そして、その歴史をともに歩んできたファンがいる。

 そんなカブスファンへ。

「ことしこそ、幸あらんことを」
「GO CUBS GO!」

☆半年間「コグマのつぶやき from シカゴ」をご愛読頂き、誠にありがとうございました。

<了>

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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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